静かなヨーロッパ映画。
台詞は少なく、
風景と沈黙が語る作品。
余白の多い物語。
たぶん、希は好きなはず。
画面の色彩も、
光の入り方も、
構図も美しい。
——でも。
内容が、入らない。
隣にある体温。
近い。
思っていたより、ずっと。
私の熱さが伝わってしまいそうで、
息を潜めてしまう。
(集中して)
自分に言い聞かせる。
スクリーンを見る。
でも、心臓がうるさい。
鼓動が、耳の奥で鳴る。
触れてしまいそうで、動けない。
肩が、わずかに触れている。
このままでいいのか。
彼はそのまま動かない。
何も起こさない。
だから余計に、意識する。
一瞬。
希はそっと、肩を離す。
ほんの数センチ。
逃げるみたいに。
でも、次の瞬間。
今度は、旬が離さない。
強くはない。
引き寄せるわけでもない。
ただ、逃げた距離を
静かに戻す。
確認するみたいに、そっと。
希の呼吸が止まる。
触れている部分が、
じわりと熱を持つ。
暗闇で、旬の横顔を見る。
スクリーンの光が、
彼の輪郭を淡く照らす。
真剣な顔。
映画を見ているはずなのに、
その横顔はどこか意識的だ。
気がついたのか、
旬の視線がゆっくりこちらへ向く。
目が合う。
一瞬。
時間が、止まる。
希は咄嗟にスクリーンへ目を戻す。
見られた。
たぶん、全部。
動揺も、戸惑いも。
肩は、まだ触れたまま。
離れない。
離さない。
映画の中では、
登場人物が静かに別れを告げている。
けれどこの暗闇では——
何かが、確実に始まっている。
触れないはずの距離が、
もう戻れないほど近い。
