Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

旬 side

連絡先を交換した夜。

部屋の灯りは落としてあるのに、
スマホの画面だけがやけに明るい。

仕事のメールなら、即返信できる。

判断も早い。

言葉も迷わない。

でも。

彼女への一文が決まらない。

【今日はありがとうございました】

打って、消す。

他人行儀すぎる。

【また会いたいです】

……早い。

想いが前に出すぎている。

深夜2時。

ベッドに入っても眠れない。

天井を見つめながら、
暗闇の中の横顔を思い出す。

肩の温度。

一度離れて、戻した距離。

あれは偶然じゃない。

でも、急ぎたくない。

本気で向き合いたい。

だからこそ、考えてしまう。

軽くしたくない。

でも重くもしたくない。

結局、その夜は送らない。


翌朝6時。

ジムのランニングマシン。

一定の速度で走りながら、
彼女の指先を思い出す。

本をめくる、細く静かな指。

バーで向けられた目。

あの目は、簡単に人を入れない。

だからこそ。

逃げ道のある誘いは、しない。

駆け引きも、しない。

走りながら、決める。

短くていい。

余計な飾りはいらない。

止まって、汗を拭き、
スマホを開く。

ようやく送る。

【今週、時間ありますか】

それだけ。

息が少しだけ浅い。

既読がつくまでの数分が、
異様に長い。

会議の結果を待つより、
よほど落ち着かない。

——既読。

心拍が上がる。

返信。

【あります】

短い。

でも十分。

胸の奥が、少し熱くなる。

走った後の熱とは違う。

確かな手応え。

「よし」

小さく、誰にも聞こえない声。