Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

エレベーター前。

人の気配が途切れた瞬間、旬はもう一度雑誌を開いた。

見開き二ページ。

写真の中の希は、凛とした表情で前を見ている。

仕事の顔。

自分の知らない表情。

誇らしい。

同時に——

少し、悔しい。

自分は隣にいたはずなのに、
すべてを知っているわけではない。

ポケットからスマホを取り出す。

画面が光る。

連絡は、しない。

ただ、静かに見つめる。

“今を選ぶ”

その“今”に、自分はいる。

わかっている。
信じている。

でも。

世界が彼女を見つけ始めている。

それが、少しだけ怖い。

遠くへ行ってしまうわけじゃない。
そんなこと、わかっている。

けれど彼女の世界は、確実に広がっている。

エレベーターの扉が開く。

無機質な光が差し込む。

旬は一歩踏み出し、深く息を吐いた。

「……すげぇな」

小さな独り言。

誇らしさが、ゆっくりと胸に満ちていく。

そしてその奥で、
別の感情が静かに芽を出す。

——もっと隣に立てる男でいたい。

守るだけじゃなく。
支えるだけじゃなく。

並んで歩ける存在で。

エレベーターの扉が閉まる。

鏡に映る自分と目が合う。


恋人として。
未来の家族として。
そして、一人の経営者として。

二人の物語は今、
それぞれの舞台で、静かに競い合いながら、
同じ未来へと進んでいる。