Nocturne(ノクターン)ー美しさは静かに交差する

ガラス張りの会議室に、午後の光が差し込んでいる。
都心のビル群を背に、長いテーブルの上には整然と並ぶ資料。

旬はいつも通り、背筋を伸ばして座っていた。
表情は静か。感情は外に出さない。

「今回の特集なんですが」

先方の担当者が、一冊の経済誌をテーブル中央に置く。

「“若手経営者特集”でして。御社とのタイアップも検討できればと」

旬は何気ない動作でそれを手に取る。
仕事の顔。
淡々とページをめくる。

紙の擦れる音。
遠くで誰かがペンを走らせる音。

そして——

指が、止まった。

見開き二ページ。

写真。
インタビュー。
大きな見出し。

―― 希。

一瞬、音が遠のく。

会議室の空気が薄くなったように感じる。
けれど周囲は何も変わらない。

「彼女、最近かなり注目されてまして」

担当者の声が、どこか遠くから聞こえる。

「若手経営者の中では異例のスピードで成長していて——」

写真の中の希は、まっすぐ前を見ていた。
柔らかい笑顔ではなく、凛とした表情。

知らない顔だ、と思った。

いや、違う。
知っている。
けれど自分の前では見せない顔。

ページに視線を落とす。

《挑戦を恐れない経営スタイル》
《組織改革の旗手》

整った言葉が並ぶ。

旬はゆっくりと息を吸う。

——すごいな。

胸の奥に広がるのは誇らしさ。
同時に、わずかなざわめき。

自分は知っている。

深夜に一人で資料を抱えていた姿も、
「もう無理かも」と小さく漏らした夜も。

誰も見ていない努力を。

「御社との親和性も高いかと」

担当者が続ける。

旬はようやく顔を上げた。

「……興味深いですね」

声はいつも通り、低く冷静。

「詳細、伺えますか」

周囲がうなずく。
会議はそのまま進む。

だが、旬の視界の端には、ずっとあの見開きがある。