孤高の剛腕大富豪は滾る愛を知って、ママと息子をこの手で囲い落とす

その後も私はひとりで美術館を堪能し、大東さんたちと約束している時間が近づいたので予約してくれたお店へと向かった。
四人で雑談を交えながら仕事の話に花を咲かせ、夜の九時にお店を出て一緒にアパートへと帰宅した。

帰ってから美術館のパンフレットを取り出そうと鞄の中に手を入れると、一番先に触れたのがスーツの男性が貸してくれたハンカチだった。涙を拭ったときについてしまったようで、ファンデーションとマスカラの跡が残っている。

もう一度会う可能性は低いし、彼はハンカチを返してもらうつもりはなさそうに見えた。

……そう思いつつも、私は気がついたら洗面所に立っていた。
クレンジングオイルと洗剤でハンカチを丁寧に洗うと汚れはきれいに落ち、洗濯ハンガーに干した。

このハンカチを返す日はきっとこないだろうから、大切に使わせてもらおう。

その翌日は、街を散歩するついでに仕事で外を歩いているときに気になっていたカフェに立ち寄った。
窓際のふたり席に腰かけ、オランダの冬空の下を歩く人たちを眺めながらホットコーヒーを口にする。
温もりをくれるおいしさだった。

大好物のチーズケーキを食べると、甘じょっぱいチーズの香りが口の中いっぱいに広がった。
カフェのある場所は観光地から外れていて、どうやら地元住民しかおらず店内は静かで快適だ。

他にも空いている席はあるが、隣の席に新しいお客さんが腰を下ろした。
日本でも普段からひとりでカフェを利用することがあるが、隣にどんな人がいようがなにも気にならない。

それなのに、なぜか今この瞬間は隣がどうしても気になって――。
私は、気づかれないように隣に視線を移した。


「え……?」


驚きのあまり、はっきりと声が漏れてしまう。

その声に反応した隣の人は私に視線を移した次の瞬間、体ごとこちらを向き、少しだけ微笑んで会釈した。
まさかの隣に座っていたのは、ハンカチを貸してくれたスーツの彼だった。

今日はこの前と違いラフな格好で、黒のダウンジャケットとグレーのスラックスに黒のブランドのスニーカーを履いている。彼が着るとシンプルな服装でも絵になってしまう。