孤高の剛腕大富豪は滾る愛を知って、ママと息子をこの手で囲い落とす

美術館に溶け込めそうなほどその場の雰囲気とばっちり合ったブラウンのスーツと白のシャツ、スーツと同系色のネクタイを身につけている。
ひとつひとつが品のあるデザインで、ひと目見ただけでも上質なものだと分かる。

ダウンパーマをかけているのだろうか、黒髪は全体的にすっきりとしていて少し長めの前髪は真ん中で分けられている。
髪の隙間からのぞく奥二重で吸い込まれそうになる黒い瞳、高い鼻筋に薄い唇と完璧な顔立ちに目が離せなかった。

身長も高くスタイルも抜群で、私は思わず見上げた。
この世にこんなにもかっこいい人がいるのかと衝撃だった。

そんな人が、私にハンカチを!?
まったく状況をのみ込めないけれど、正直ありがたい……。


「……いいんですか?」

「どうぞ。それ以上、手でこすったら目が腫れる」


彼は真剣な目でそう口にして、半ば強引に私にハンカチを渡す。
私が「ありがとうございます」とお礼を言うと、なにも言わずにその場から立ち去った。

ハンカチは貸してくれたけど、他人には無関心といった感じだ。
彼のすぐ後ろには黒のスーツを着た男性がいて、私に会釈した後すぐに男性はブラウンのスーツの彼についていく。

彼のまとう空気は異質で近寄りがたいが、人を惹きつけるオーラがある。
そのため、館内にいる他の人たちも私と同じように彼を目で追う。

私が角度をつけて見上げたのだから、彼は優に一八〇センチは超えている。
長身なうえ、端正な顔立ち。恵まれた容姿にまぶしいほどの華やかさをまとっている彼に、(うらや)ましさを感じた。

私はというと、オシャレの欠片もなく、ストレートの長い黒髪は下ろしっぱなし。
眉毛を前髪で隠し、化粧も最低限しかしていない。そんな地味な私からすると、彼は別世界の人なのだ。

それなのにもかかわらず、彼は当然のようにハンカチを差し出してくれた。

いくら泣いているのが見えても見ず知らずの人にハンカチを貸そうとはならない。
外見のみならず中身もかっこいいなんて、さぞかしモテるのだろう。

それにしても、どうして彼は私が日本人だと分かったのかな……。
ひと言目から日本語で話しかけてきたくらいだから確信があったはず。

まあ、理由なんてなんでもいいか。もう二度と会わないだろうし。

私は強引に渡されたハンカチで涙を押さえるように優しく拭った。