仕事はやりがいがあるが、やはり異国の地での仕事を絡めたコミュニケーションは簡単ではない。
最初は時差ボケが残っていたのもあり、体力的にも精神的にも大変だった。
こっちでも土日は休みなので、自分のために有意義に時間を使おうと思う。
この出張が決まってから、ある場所に絶対に行こうと決めていた。
そこまではアパートの最寄り駅から電車に乗って十五分ほどの距離。
広い敷地の中央に存在するのは中世の大聖堂のような建物で、赤レンガと彫刻の石材が組み合わさり華やかさと歴史を感じさせる。
大勢の観光客で賑わうその場所は、世界的にも有名なアムステルダム国立美術館。
外観を写真で見たことはあったが、実際に訪れて目にするとその壮大さに息をするのでさえ忘れてしまいそうになる。
ゆっくりと自分のペースで美術館の中を歩き、美術品を堪能すること一時間……。
あるひとつの絵を目にした瞬間、心臓を誰かにつかまれるような感覚におちいり、目からはひと粒の涙がこぼれ落ちた。
美術品にすごく詳しいわけではないが、こうしてひとつのキャンパスに命を灯すように描かれた絵を見ると心が落ち着く。
そのため美術館が好きで、特に旅先では普段お目にかかれない作品に出会えるので、できるだけ足を運ぶようにしている。
だけど、絵を見ただけで泣いたのは初めての経験だった。
ひとりの女性が子どもを抱きしめる姿が描かれていて、その絵を見た瞬間頭の中に浮かんだのは私が十一歳のときに病気で亡くなった母だった。
会えなくなってから十五年が経とうとしていて、ここ十数年、ふと母を思い出しても悲しくて泣くことはなくなっていたのに。
この涙の理由は分からないが、オランダという非日常の環境が、もしくはこの絵そのものが、私の心の奥底に眠っている感情を表に引き出してくれたのかもしれない。
涙を拭こうと鞄の中のハンカチを探すが、今日に限って持ってくるのを忘れてしまった。
代わりのティッシュもないようで、手で拭く方法しか残っていない。
こんな趣のある歴史的な場所で涙を拭く姿なんて誰にも見られたくない。
そう悩んでいる間にも涙は止まらず、鼻水まで出てきそうで焦りを覚える。
「よかったら使って」
手で涙を拭おうとしたそのとき――。
隣から低い声が聞こえてきたと思ったら、目の前に淡いブルーのハンカチが差し出された。
とっさに隣に視線を移すと、思わず息をのんだ。
そこには、これまで見たことのないような容姿端麗な男性が立っていた。
最初は時差ボケが残っていたのもあり、体力的にも精神的にも大変だった。
こっちでも土日は休みなので、自分のために有意義に時間を使おうと思う。
この出張が決まってから、ある場所に絶対に行こうと決めていた。
そこまではアパートの最寄り駅から電車に乗って十五分ほどの距離。
広い敷地の中央に存在するのは中世の大聖堂のような建物で、赤レンガと彫刻の石材が組み合わさり華やかさと歴史を感じさせる。
大勢の観光客で賑わうその場所は、世界的にも有名なアムステルダム国立美術館。
外観を写真で見たことはあったが、実際に訪れて目にするとその壮大さに息をするのでさえ忘れてしまいそうになる。
ゆっくりと自分のペースで美術館の中を歩き、美術品を堪能すること一時間……。
あるひとつの絵を目にした瞬間、心臓を誰かにつかまれるような感覚におちいり、目からはひと粒の涙がこぼれ落ちた。
美術品にすごく詳しいわけではないが、こうしてひとつのキャンパスに命を灯すように描かれた絵を見ると心が落ち着く。
そのため美術館が好きで、特に旅先では普段お目にかかれない作品に出会えるので、できるだけ足を運ぶようにしている。
だけど、絵を見ただけで泣いたのは初めての経験だった。
ひとりの女性が子どもを抱きしめる姿が描かれていて、その絵を見た瞬間頭の中に浮かんだのは私が十一歳のときに病気で亡くなった母だった。
会えなくなってから十五年が経とうとしていて、ここ十数年、ふと母を思い出しても悲しくて泣くことはなくなっていたのに。
この涙の理由は分からないが、オランダという非日常の環境が、もしくはこの絵そのものが、私の心の奥底に眠っている感情を表に引き出してくれたのかもしれない。
涙を拭こうと鞄の中のハンカチを探すが、今日に限って持ってくるのを忘れてしまった。
代わりのティッシュもないようで、手で拭く方法しか残っていない。
こんな趣のある歴史的な場所で涙を拭く姿なんて誰にも見られたくない。
そう悩んでいる間にも涙は止まらず、鼻水まで出てきそうで焦りを覚える。
「よかったら使って」
手で涙を拭おうとしたそのとき――。
隣から低い声が聞こえてきたと思ったら、目の前に淡いブルーのハンカチが差し出された。
とっさに隣に視線を移すと、思わず息をのんだ。
そこには、これまで見たことのないような容姿端麗な男性が立っていた。



