カラン、コロン、と心地良い音が庭園に響く。今夜は夜空にまん丸の月が昇っていた。庭園はライトアップされていて、池の水面に映る満月がゆらゆらと揺れている。
何より、庭の奥に鮮やかなピンク色のツツジが絨毯のように咲き乱れていた。月明かりに照らされたツツジは、まるで淡い光を放っているようだ。
「・・・・・・すごい」
綺麗な光景に、琴葉は言葉を失って見惚れた。この絶景を見つけた理玖が、琴葉にも見せたいと思ってくれたことに、喜びが込み上げてくる。
「寒くない?琴葉さん」
昼間は大分暖かくなってきたとはいえ、夜はまだまだ空気が冷たい。自分の羽織を琴葉の肩にかけながら尋ねてくる理玖に、笑顔を返す。
「ありがとうございます!理玖くんは寒くないですか?」
「俺は体温が高いから大丈夫だよ」
理玖はそう言って微笑んでいたけれど、指先に触れたら少し冷たくなっていた。理玖の大きくて骨張っている指を両手で包んで、ぎゅっと繰り返し握る。琴葉の体温を、ほんの少しでもあげられるように。
「歩いてみようか」
「はい」
理玖が、琴葉の手を引く。琴葉は、そっと理玖の指に自分の指を絡めて、理玖の身体に肩を寄せた。
理玖の身体が一瞬、固まったような気がした。でも、すぐに指を絡め返して、理玖の身体も琴葉の方へ傾いた。
自然と寄り添いながら、夜の庭園を、歩く。
「こんな風に一緒に過ごせるの、久しぶりですね」
「うん。また、どこか一緒に行こうね」
「はい!今度はどこに行きたいですか?」
当たり前のように、未来の約束ができることが嬉しい。次はどこに一緒に行きたいか話しながら、静寂の庭を心ゆくまで堪能する。
月明かりに照らされた横顔を見ながら、こんな時間がずっと続けばいいのに、と思った。
部屋に戻ると、机が隅に寄せられて、畳の上に並べられた布団が目に入った。一瞬、心臓がドキン、と跳ねる。琴葉は見なかったかのように視線を逸らした。でも、どうしても意識してしまう。
「そうだ。琴葉さん、お茶飲む?」
「えっ!?あ、そうですね・・・・・・」
布団に意識を持って行かれていたから、素っ頓狂な声が出てしまった。顔がぼっと熱くなったので、顔を伏せて、湯飲みに手を伸ばす。
すると、横から理玖の手が伸びてきて、急須を手に取った。
「私、やりますよ?さっき、食後のお茶淹れてくれましたし」
「ん~?二人でやった方が早いじゃん」
それにさっきのは俺の方が早く食べ終わったからね、と言いながら、手際よくお茶っ葉をセットしている。
「・・・・・・私だって、理玖くんにお茶淹れたいです」
少しだけ、唇をとがらせる。理玖が琴葉にいつもしてくれているように、琴葉だって理玖にしたい。でも、気づいたら理玖が先にお茶を淹れてくれている。
「・・・・・・琴葉さん」
急須の蓋を開けてお湯を入れようとしていた理玖の手が、止まった。お湯を入れずに蓋を閉めて、机の隅によける。
チャンスだ、と思って急須に手を伸ばそうとしたら、理玖の手にやんわり止められた。
「理玖くん?」
「琴葉さん、こっち見て」
「・・・・・・?はい」
不思議に思いつつ顔を上げたら、理玖の端正な顔が間近に迫っていた。心臓が大きく跳ねる。伏せた目の、睫毛の影が綺麗で、小さく息を呑んでいると――そのまま、口を塞がれる。
「・・・・・・んんっ!?」
理玖の手が、琴葉の後頭部と背中に回る。一部の隙間がないくらい、強く抱き寄せられた。
何度も角度が変わって、深くなっていく。絡め取るように動く理玖の舌に必死に応えていると、後頭部に添えられていた理玖の手が動いて、琴葉のバレッタを外す。
コトッと机の上に置く音が響いて、また、手が後頭部に添えられる。今度は、優しい手つきで琴葉の髪を梳いていく。
激しい口づけと優しく撫でられる手に、琴葉はどんどん翻弄されていった。
「・・・・・・っ、理玖くん」
息継ぎの合間に名前を呼ぶと、理玖の腕の力が少し弱まった。深く重なっていた唇が離れて、銀の糸が二人を繋ぐ。
理玖が、糸を巻き取るようにして琴葉にリップ音を立てながら軽くキスをする。理玖を見ると、情欲の灯った熱い瞳と目が合って、思わず琴葉は顔を伏せてしまった。
「・・・・・・お茶は?」
「・・・・・・あとで、淹れてあげるから」
「ふふ、それじゃあ、意味ないですよ」
琴葉の頬が緩む。顔を上げると、理玖も穏やかに笑っていた。その顔をみたら、たまらなく――理玖に触れたいと思った。
琴葉は、理玖の首に自分の腕を巻きつけて、顔を近づける。お返しをするように唇を重ねた。
軽く触れて、すぐに離す。嬉しそうに口角を上げている理玖と目が合った。
「ふふふ」
照れくさくて、笑って誤魔化しながら、理玖のメガネに手を伸ばして外す。テーブルの上にそっと置くと、その手を理玖が取った。
