連休なだけあって、サービスエリアは混雑していた。理玖が手を引いてくれているので、琴葉はぶつからないように身を縮めながら歩く。
理玖の大きな背中を見ながら、胸の鼓動が、どんどん高鳴っていった。宿に着いて、ご飯を食べて、温泉に入ったら、その先は――と考えて、顔が火照っていることに気づく。
琴葉は頭を振って、その考えを追い払った。頬を冷ますように周囲へ目を向けると、人で溢れたフードコートが目に入った。
「人、多いね」
「そうですね」
たくさんの人で賑わっている周囲を見渡して、理玖が何か考えていた。車の中では、どこかのお店でテイクアウトしようと話していたけれど、たくさんの人が並んでいて時間がかかりそうだ。
――どこかで、お弁当とか売ってないかな
そう思ってキョロキョロしていると、地元の名産品を扱ったお店を見つけた。人はたくさんいるけれど、フードコートよりは混んでいない。
「理玖くん」
「ん、どうしたの?」
理玖の手を軽く引っ張って、さっき見つけたお店を指さす。
「あそこのお店、お弁当売ってるみたいです」
「お、琴葉さんナイス。行ってみようか」
「はい」
お店には、すぐ近くの漁港で今朝取ったものだという魚を使った海鮮丼や、ブランド牛を使ったコロッケ弁当など、いろいろな種類のお弁当が売っていた。
理玖と「美味しそうだね」と言いながら選ぶ時間はとても楽しい。たくさん迷って、琴葉はコロッケ、理玖は海鮮丼を買ってサービスエリアをあとにした。
サービスエリアを出て数分車を走らせると、潮の香りが強くなってきた。窓の外には、太陽がキラキラと反射している海が見える。
「わあ〜凄い」
車から降りると、目の前には青く澄んだ空と海がどこまでも広がっていて、思わず声が出た。潮風が、髪を揺らす。
「ね、綺麗だね」
いつの間にか隣に来ていた理玖は、琴葉のバッグを軽々と持つと、そのまま手を取った。
「行こうか」
そう微笑まれて、琴葉の胸がまた高鳴った。
潮風が心地よく吹き抜ける海岸沿いのベンチに、理玖と琴葉は並んで腰掛けた。目の前には、どこまでも続く真っ青な空と海がキラキラと輝いている。穴場なのか人の姿はまばらで、犬の散歩に訪れている地元住民らしき人しかいない。
琴葉は自分のバッグからサンドイッチを取り出した。運転中に理玖のお腹が空いたら食べてほしいと思って、今朝早起きして作っていたものだ。
「これ、よかったら食べてください」
サンドイッチを渡すと、理玖が嬉しそうに笑った。
「やった、ありがとう。美味しそう」
さっそくもらうね、と理玖が口に運んだ。琴葉は、緊張しながら理玖の様子を窺う。何度も味見をしたけれど、味はよく分からなかったから、少し怖い。
「すっごい美味しい!」
琴葉の不安を吹き飛ばすように、理玖は何度も「美味しい」と言ってくれた。本当に美味しそうに口に運んでいくので、琴葉の頬は緩んだ。
「よかったです」
あっという間に半分くらいを平らげた理玖は、「あっ」と何か思い出したように声を出して、袋の中を探る。
「はい、琴葉さんのコロッケ」
理玖が渡してくれる。琴葉は両手で受け取った。
「ありがとうございます」
パックの蓋を開けると、ソースの甘い匂いが広がって、急にお腹が空いてくる。箸でコロッケを割ると、サクッという小気味良い音が聞こえた。
「コロッケも美味しそうだね」
「理玖くんもどうぞ」
小さく割ったものをパックの蓋に乗せて渡そうとしたら、横から理玖の手が伸びてきた。箸を持つ琴葉の手に上から重ね、理玖の顔が近づいてくる。突然のことに目を白黒させているうちに、理玖は琴葉の手を動かして、コロッケを口に含んだ。
「ん、ありがとう。やっぱり美味しい」
呆気にとられる琴葉をよそに、理玖は鼻がくっつきそうな距離で魅惑的に笑った。
「・・・・・・それなら、よかったです」
理玖の目元が柔らかく緩む。それだけなのに、理玖の笑みが艶っぽく見えてしまった。
理玖から視線を逸らすこともできない。胸の奥のざわめきが止まらなくて、指先から力が抜けていく。気づいた時には、手から、箸が溢れ落ちた。
「おっと、危ない」
理玖は箸をキャッチしてくれた。それから、琴葉を見て微笑む。
「あっ、ごめんなさい」
そこでようやく我に返った。慌てて理玖から箸を受け取ろうとした時――。
理玖の顔が、近づいてきた。伏せられた瞳が、光に照らされて輝いて見える。目を引き寄せられて動けないでいると、唇が軽く触れて、離れた。
「・・・・・・外、ですよ」
目を白黒させながら、琴葉は口に手を当てた。柔らかな唇の感触と、温もりがまだ残っていて、顔に熱が集まっていく。
「ごめんね、つい。あまりにも可愛かったから」
理玖は楽しげな声で言った。目を細めながら悪戯っ子のような顔で笑う。
「食べ終わったら、海岸歩いてみようか。きっと海風が気持ちいいよ」
「・・・・・・はい」
理玖は、何事もなかったかのように海鮮丼を食べはじめた。「琴葉さんにもあげる」と当たり前のように口元に運んでくれるのを見ながら、今日一日、心臓が保つのかなと、ふと思った。
