はじめはすぐに離れた。でも、ほとんど重なっているような至近距離で目が合うと、頬に添えられていた手が後頭部に回った。優しく引き寄せられ、再び唇が重なる。
優しく触れるだけだった唇は、熱を帯びてくるとともに深くなっていった。何度も角度を変えて重なり、身体の中に熱を注ぎ込まれているようだ。その熱にくらくらしてしまいそうで、琴葉が助けを求めるように理玖のシャツをぎゅっと握ったら、琴葉を拘束する力が強くなった。
「んっ・・・・・・」
どちらの唇なのか、境界線が曖昧になる。少し息苦しくて、酸素を求めて口を開いたら、ぬめりとしたものが忍び込んできた。
「ふっ・・・・・・!?」
琴葉の身体がびくりと飛び跳ねても、理玖の舌は琴葉の歯列をなぞり、口の中を蹂躙する。角度が変わるたびに、自分のものとは思えないような甘い声が漏れた。呼吸が混ざり合って、舌が絡み合う。深さを増す一方の口づけに、琴葉の頭はだんだん真っ白になって、身体に力が入らなくなってきた。
「・・・・・・んっ、つき、しまくん・・・・・・」
ついに琴葉が限界を迎え、身体に力が入らなくなって倒れ込みそうになると、理玖の逞しい腕に受け止められた。唇が離れて、銀の糸が琴葉と月島くんを繋ぐ。理玖が糸を絡め取るように琴葉の唇にリップ音を立てて触れた。流れるように背中と足に腕が回り、抱え上げられる。琴葉がお姫様抱っこをされていると気づいた時には、ソファに優しく横たえられていて、理玖の顔越し天井が見えていた。
「・・・・・・月島くん」
乱れた息を整えながら、名前を呼ぶ。理玖は琴葉の手を自分の頬に触れさせた後、唇を寄せた。今まで見たことのない色香に、琴葉の胸が高鳴った。
「理玖って呼んで」
「へっ・・・・・・?」
琴葉が何か言うよりも前に唇を塞がれた。月島くんの右手は琴葉の頭を優しく撫でているけれど、口づけは激しさを増していく。
「・・・・・・あっ、んんっ・・・・・・つき、しまくん」
「理玖」
角度を変える僅かな息継ぎの合間に彼の名前を呼ぶと、唇が離れて銀の糸が引いた。月島くんが糸を絡め取るように軽くキスをして、少し顔をあげたら唇が触れそうな距離でもう一度「理玖」と言った。
「・・・・・・理玖くん」
琴葉が息も絶え絶えに名前を呼ぶと、一瞬目を見張って――凄く嬉しそうに微笑んだ。それだけで胸がいっぱいになった。
琴葉の額や目元、頬へ次々に唇が落とされる。少しくすぐったくて身をよじっていると、耳元に口を寄せられた。
「琴葉・・・・・・めちゃくちゃ可愛い」
吐息混じりに低い声で囁かれ、琴葉の身体がびくっと飛び跳ねた。耳元がとても熱くて、心臓が壊れそうなくらい痛い。再び端正な顔が近づいてきて、口を塞がれた。
理玖くんから与えられる熱に身も心も翻弄されながら、ずっとこうしてほしかったのだと、密かに思った。
どれだけ時間が流れたのだろう。
室内には、琴葉と理玖の小さな吐息だけが聞こえる。
ちゅ、とリップ音を立てて、理玖の唇が離れていった。そのまま琴葉の首筋に顔を埋め、吐息がかかる。首筋に唇を寄せて舌でなぞられると、背中がゾクゾクして、全身に電流が走ったような感覚がきた。
「ひゃっ」
思わず身を竦めると、理玖がバッと起き上がって、両手をあげる。
「ごめんね・・・・・・危なかった」
そう言って琴葉の頭を優しく撫でると、背中に腕を回して優しく抱き起こしてくれた。さっきまでとは違う優しい瞳で見つめられて、琴葉は胸がいっぱいになる。
「琴葉さん、今日はもう帰ろう。送ってくから」
これ以上一緒にいたらやばい、と呟く声が聞こえた。
琴葉はついさっきまでしていた数々のことが頭から離れなくて、ぼうっと理玖に見惚れながら、頷いた。
でも、ほんの少しだけ、もっと一緒にいたかったな、と頭の片隅で思った。
*****
琴葉は自室の扉を閉めて、その場にぺたりと座り込んだ。両手で口を覆い、叫び出したい衝動を必死に抑え込む。
凄いことをしてしまった・・・・・・!
月島くんの大きな手や体温、匂い、唇の柔らかさ・・・・・・全て覚えている。息が混ざり合うほど深く唇を重ねて「理玖くん」と初めて呼んだ。
今まで読んできた本にあったようなことを、今日、月島くんとした。思い出すだけで顔に熱が集まるほど恥ずかしくて、ドキドキして、でも、凄く嬉しい。
「ふふふ」
自分の唇に指を這わせ、琴葉は思わず笑う。くすぐったくて、心が温かい。初めて見る顔がたくさんあった。次に会った時は、お互いどんな顔をするんだろう。恥ずかしくて顔をみられないかもしれないし、もしかしたら、案外今まで通りに話せるのかもしれない。
楽しみだな。早く会いたい。今日だけで、月島くんのことをもっと好きになった。
