清く正しく美しく



「ねえ、凪。私って魅力ないのかな?」



「どうしたの、藪から棒に」



 学食で凪とお昼ご飯を食べながら琴葉が切り出すと、凪は怪訝そうな顔をした。凪とは学部は違うけれど、同じ大学に通っているので、時間が合う時はこうして一緒にご飯を食べている。



「私が凪みたいにもっと美人で、女性らしい体つきをしてたら違ったのかなあ」





 触れたいと思わせる魅力が足りないのかもしれない。もっと、触れずにはいられないほどの魅力があれば、理玖は琴葉に触れてくれるのだろうか。




「何言ってんの、琴葉は私より可愛いじゃん」




 十分魅力的だよ、と凪は言ってくれたけれど、女性としての魅力は絶対に凪の方があると思う。凪が恋人だったら、きっと触れたいと思うに違いない。




「月島くんと上手くいってないの?この間デートするって言ってたけど」



「上手くいってるよ。でも、何というか・・・・・・私が欲張りなのかもしれない」



「どういうこと?」



 凪のことは心から信頼しているし大好きだけど、琴葉の邪なことを全部話したいとは思わない。潔癖なところがある凪には、苦手な話だろうから。



「げ、あいつがいる」



 凪が琴葉の後方を見て、嫌そうな顔をした。琴葉も振り返って見ると、豆原が丁度学食に入ってくるところだった。
 


「ごめん、私逃げるわ」




 凪は唐揚げを急いで口に運んだ。
 豆原と凪は、学部まで同じで、講義もよく被っているらしい。オリエンテーションで隣り合わせになって「運命だね」とウインクをされたとげんなりした顔で言っていた。



「ゆっくり食べなよ。もしかしたら豆原さん気づかないかもしれないし」



「いや、多分気づくよ。今までだってそうだったじゃん」



「まあ、そうだけど」




 あいつにセンサーでもついてんの?と凪は不思議そうにしている。琴葉としては、豆原の気持ちは分かる。好きな人がいたら、自然と目に飛び込んでくるのだ。人が大勢いたって関係ない。その人だけが輝いて見える。




 凪が水を全て飲み終えて立ち上がった時、豆原がやって来て、凪の隣の席にカツカレーの乗ったお盆を置いた。




「凪ちゃ~ん、偶然」



「じゃあ、琴葉、私レポートやるから」



「あ、うん。頑張って」




 凪は豆原の方を一切見ずに、琴葉に笑いかけてお盆を手に取る。




「え~無視?」




 豆原が凪の肩に手を乗せたけれど、すぐに豆原の「いたっ!」という声が聞こえてきた。




「琴葉、またね」



「うん、またね」




「凪ちゃん、俺は?」




 凪は豆原を完全に無視すると、颯爽と食器を返却しに言ってしまった。しょんぼりした表情の豆原は、椅子を引いて力なく腰掛けた。




「あの、大丈夫ですか?」
 


「うん?」




「さっき、痛いって聞こえたので」



「ああ、大丈夫、大丈夫。最近、凪ちゃんに触ろうとすると足踏まれんの」




 豆原はあっけらかんと言った。豆原にとっては普通のコミュニケーションかもしれない。でも、それは凪が苦手とするものなのではないかと思う。



「・・・・・・凪、そういうの、苦手だと思いますよ?」



「う~ん、だよねえ。アプローチの仕方変えるわ」




 最近逃げられてばっかりだし、と豆原は真面目な顔で考えている。凪が嫌がったら直そうとするのは、琴葉にとっては豆原を好ましく感じるところだ。




「で、琴葉ちゃんは最近どうなの?」




 月島と、と言われて、琴葉の肩が飛び跳ねた。