清く正しく美しく



 あれ、気のせいだったかな。
 

 月島くんと目が合ったような気がしたけれど、月島くんは場外に戻っていった。その時見せた月島くんの表情は爽やかで感じではなくて、どうしてか辛そうに見えた。何か、激情に駆られているような。

 

 でも、何事もなかったかのようにいつもの笑顔で戻っていたし、見間違いだったのかもしれない。琴葉はそう結論づけて、試合を見守った。
 


 その後の理玖の活躍はめざましく、男子サッカーは優勝が決まった。




「じゃあ、琴葉、試合頑張ってね」



「うん。凪も」



 手を振って凪を見送ると、琴葉は体育館に向かった。凪はこれから女子サッカーの試合に出るので、女子バレーの試合に出る琴葉とは別行動になる。



――目をつぶらない。ボールをしっかり見る。力みすぎず、でも力を抜きすぎない。




 月島くんに教えてもらったことをしっかり思い出して、イメトレを重ねる。教えてくれた月島くんのためにも、チームのみんなのためにも、去年の二の舞にならないようにしなければ。




 琴葉は深く深呼吸をしてから、試合に臨みに行った。





 試合は順調だった。心配していたサーブも、理玖の教えの通りにやったら空振りすることなく敵陣へ飛んでいった。




 でも、ボールを上手く拾えない。チームのみんなからは「とにかく上げてくれれば良いから」と言われているものの、相手チームの子のアタックが強くて腕に当たってもコート外へ弾かれたように飛んでいってしまう。




「あの子、さっきから集中砲火されてない?」



「ああ、例の・・・・・・」



 そんな会話が、かすかに聞こえた。



 ああ、ダメだ。琴葉が上手くできないから、前みたいに狙われている。
 


 足首の奥が、じんと熱を帯びた。体重をかけるたびに、針で刺されたような痛みが走る。さっき、ボールをあげる時に挫いてしまった足がどんどん痛くなっているのだ。




 痛む足を引きずり、ボールを目で追う。また、琴葉の方へ飛んできた。琴葉の頭上へ真っ直ぐ飛んでくるから、この場合はトスで・・・・・・と考えていたら、頬に強烈な痛みが走った。



 気づいたら琴葉はその場に倒れていて、近くでボールが弾んでいた。チームのみんなの「天童さん!?」と驚いた声が聞こえるけれど、状況が呑み込めない。



「今の、狙われてなかった?」



「相手チームの子、月島くんのファンで有名だから・・・・・・」



 頬が強く擦られたみたいに痛くて熱い。足の痛みも増している。体力も限界を迎えていて、琴葉の意識が途切れそうになった時、「タイム」と割り込んでくる声が聞こえた。



「天童さん、大丈夫?」



 心配そうに顔を覗き込んでくる理玖と目が合った。



「・・・・・・月島くん」



「保健室、行こう」



 そう言うと、理玖は琴葉の背中と足に腕を回した。危なげなく立ち上がり、理玖の端正な顔が近くに見える。



 いわゆるお姫さま抱っこをされているのだと理解した途端、顔が別の意味で熱くなった。至近距離に見える理玖の顔と状況に、琴葉は混乱する。



 混乱しているうちに視界の端が白く滲んで、琴葉は何も見えなくなった。