キミに恋したので地球侵略は延期します!

​ 放課後。わたしは通学路ではなく、なぜか学校の裏山に続く坂道を駆け上がっていた。
 というのも、すべて自分のドジのせい。忘れものを取りに教室に戻ったせいで、塾に行くのがすっかり遅くなっちゃったんだ。
「もう、わたしのバカバカ! なんでペンケースごと忘れちゃうかなぁ……」
 間に合わせるためには近道するしかない。もし「ひよりさん、まだ来ていませんが、お休みですか?」なんて連絡が家にいったら……ひい~、お母さんに怒られるー!!
 裏山の遊歩道に入ったそのときだった。
​ キィィィィィィィン!!
​ 鼓膜を突き刺すような、聞いたこともない高い音が空から降りそそぐ。
「ひゃっ!? な、なに!?」
 思わず耳をふさいでうずくまる。次の瞬間、視界が真っ白な光に包まれた。

​ ドォォォォォォォン!!

​ 大きな地響きとともに、どこかに何かが落ちてきたような音がした。土煙が舞い上がり、鳥たちが一斉に羽ばたいて逃げていくのが、目をギュッと閉じていてもわかった。
 どのくらいそうしていたんだろう。しばらくジッとしていたら、シーンとした静寂がよみがえってきた。
 いったい何が起きたんだろう。
 こわかったけれど、恐る恐る目をあけた。あっ。数メートル離れた木々のあいだから、銀色の何かが見える!
 変だなあ。なんで森の中に……? あんなのあったっけ? でもすぐにピンときた。ひょっとして、さっきの地響きって。うん、そうだ。たぶん、あのせいだよ。
 どうしよう。ここにいるのは、わたしひとりだけだ。大騒ぎになっていないから、街のひとたちはまだ気づいてないかもしれない。何か大変なことが起きているとしたら、わたしが110番しなきゃ……!
 そう思ったとたんに緊張して、ゴクンとつばをのみこんだ。もう塾のことなんて頭になかった。その銀色に向かって足を踏みだす。
 一歩進むごとに木々のあいだが広がっていく。そこには直径二メートルほどの、つるんとした銀色のものが地面に刺さっていた。周囲の木はなぎたおされていた。
​「え、たまご? UFO……じゃないよね?」
​ 心臓がバクバク鳴っている。これは、わたしがどうにかできるものじゃない。逃げなきゃいけないってわかっているのに、なぜか足が動かない。
 すると、たまごの表面にスーッと亀裂が入り、プシュッという音とともに白い蒸気があふれだしたんだ。
 そして、蒸気のなかから、ひとりの男の子がゆっくりと姿をあらわした。
​「………………っ!」
​ わたしは、息をすることさえ忘れてしまった。
 逆光の中に立つその子は、透きとおるような金色の髪に、吸い込まれそうなほど深い青色の瞳。とってもステキな男の子だったから。
 身につけているのは、マンガで見る王子さまのような服だ。でも、肩の飾りはボロボロで、頬にはうっすらと土汚れがついている。
​「チッ。着陸に失敗したか。計算より重力加速度が大きすぎるな」
 わっ、しゃべった!!
 おどろいた拍子に、小枝を踏んづけてしまった。ポキッと音が響く。
 男の子がわたしに気づき、こっちを向いた。
​「おい、そこの下等生物。ここが太陽系第三惑星、地球か?」
「か、かとうせいぶつ……? 第三惑星かどうかわからないけど、ここは地球で日本だよ……」
「ニホン?」
 男の子が首をかしげる。そのしぐさは、ふつうの男の子に見えた。
「わ、わたし、星野ひより。あなたは……?」
​ 震える声で言うと、彼はフンと鼻で笑った。
​「おまえの名など聞いていない。わたしは銀河帝国ルミナス第三王子カナタだ。ひざまずけ。本日をもって、この星はわれわれの管理下、つまり侵略の対象となったのだ」
​ 夕日に照らされた彼の姿は、あまりにも美しくて、恐ろしかった。
 銀河帝国……? 王子? 侵略?
 う、うそでしょ? これはきっと、そう! お芝居か映画の撮影かなんかだ。けど、まわりにはカメラらしきものも人影もない。ここにいるのは、わたしと妙な格好をした美形の男の子だけ。
「どうした? なぜ何もしゃべらない? おそろしすぎて声もでないのか?」
 男の子は不敵な笑みを浮かべる。そして――。

 ギュルルルルルルル~~ッ!!!

 信じられないくらい大きな音が鳴りひびく。
​「え……」
 まちがいない。それはわたしにも、とっても身に覚えのある音だった。
 だから、びっくりしちゃった。
 お腹の虫が鳴った音だったから。