洛陽夜曲

九条組の若頭、京司の背後には、対照的な色を持つ二人の“盾”が控えていた。

一人は、氷のような冷静さで組織の急所を守り抜く知略家、錨。

もう一人は、剥き出しの闘争本能で道を切り拓く武闘派、山城。静と動、正反対の性質を持ちながらも、二人が京司に寄せる忠誠心と、
彼から向けられる絶対的な信頼だけは、寸分違わず重なっていた。

しかし現在、その均衡は危うい。
忽然と姿を消した山城の行方は、厚い沈黙に閉ざされたままだ。
組の総力を挙げた決死の捜索は、今もなお、暗闇の中を彷徨い続けている。


「錨、山城の足取りはまだ掴めへんか?」


「すみません……。子飼いの情報屋を総動員して探らせてはいますが、
決定的な情報は上がってきていません」


錨が苦虫を噛み潰したような表情で俯く。
常に冷静沈着、鉄の仮面を崩さない彼が、
これほどまでに脆い焦燥を剥き出しにするのは、
これまで一度もなかったことだ。
その眉間の皺ひとつが、
今の彼らの置かれた絶望的な状況を何よりも如実に物語っていた。


「山城の奴、どこぞの不興でも買っとったんか?」


錨が答えを渋る。ようやく返ってきたのは、錨の苦笑。


「およそ、波風を立てずに生きられる性分ではありませんでしたが」


京司は火を灯した煙草を深く吸い込み、肺の奥で燻らせる。


「……死体が雲隠れとは、一体どういう趣向やろな」


紫煙の向こう側で、彼は独りごちた。血で血を洗う報復でも、
宣戦の通達でもない。その不可解な欠落は、答えのない問いとなって、
事務所の重苦しい空気をより深く、より暗く沈殿させていった。

鈴華と決別したあの大阪の街角を、京司は今も仕事の合間に幻視する。
どれほど多忙のなかに身を隠そうとも、
瞼を閉じれば、絶望を抱えた彼女の瞳が鮮やかに蘇る。
それは消したくとも消えぬ残像のように、
彼の魂に深く、鋭く楔を打ち込んでいた。

重苦しい沈黙を切り裂くように、
京司のスマートフォンが甲高い電子音を撒き散らした。
しかし、彼は静寂を保ち、
その音を意識の彼方へ追いやっているかのようだった。
その空虚な無関心に耐えかねたように、錨が怪訝な眼差しを向け、
静かに言葉を紡ぐ。

「でなくてよろしいのですか?」

「ええんや」


ディスプレイに浮かび上がったのは、「梨花」という二文字だった。
あのお仕着せの見合いの日を境に、彼女から執拗に届けられる着信の波。
京司の胸中には、澱のように重く、不快な倦怠感が溜まっていく。

(お前と話す事なんか何もあらへんわ)

突き放すような独白が、彼の思考の底で冷たく響いた。