「ずいぶん久しぶりじゃないか」


相変わらずしゃがれ声の彼は、自分が最後に記憶していた姿と、かなり変容していた。


「ご無沙汰しておりました」


気まずさと、目のやり場に困り頭を下げる。


ふくよかな人だった。


まだ初老の彼は髪もしっかり生えていたし、皺もこの年齢の人にしては少なく、実年齢より若く見られる事は常だった。


しかし今の彼は当時の面影虚しく、痩せこけた腕はまるで枯れ木のようで、髪もなかった。


皺もこの一年で随分と増えたように思う。


「もう、来ないと思っとったぞ」


彼はかすれた声で言った。


ベッドの横の出しっぱなしのパイプ椅子に腰掛けながら、苦笑いを浮かべ、こちらの旨を正直に伝えた。


「そのつもりでした」


「ほぉ。相変わらずはっきり言いよるな。お前さんわ」


どこか寂しそうに微笑む彼を見て、彼はこんなに儚く笑う人物だっただろうかと心の中で思う。


「で、何で来た?また恨み言でも言いに来たか」


「あなたには・・・責任をとって貰わなければならない」


「真樹の事か?」


分かっているくせに。


本当は優しくしようと思っていた。それが例え欺瞞だとしても、この人の身に何かあれば、どうあれ自分は悲しむからだ。


いつかの日のために、後悔したくなかったからだ。


「鑑査委員制度についてです」


鋭く睨み付けたつもりだが、そんな事で動じる人ではない。


「あぁ」


何だそんな事か?そうとも言わんばかりに彼は自分から視線を外して、窓の外を見やった。


空にはもう、夜の色が浮かび始めている。


もうこんな風にしかこの人と繋がっていられない。そう思うと昔日を思い息苦しさを感じた。


でも、俺は…俺なりに自分の信じるやり方であなたに応えて見せる。


真樹さん、未だに俺はあなたに囚われたままです。そして目の前のこの人もきっとそう。