「それにしてもさ、今日のミコト熱くなりすぎだ」


椿は思い出したようにまた喉を鳴らす。


私も一緒になって思い出しむっとした。


だって、あれは瀬川透があんな風にを言うから!


L欄について話題を振った時だった。本人はきっと、何気ない感想を漏らしただけだったのだろうけど・・・


『あの付き合ってる人とか、別れた人を書くっていうやつだね。あれ、悪趣味だよね』


“悪趣味”


この言葉にかっときた。今まで自分のしてきた事を全て否定された気分だった。


何も分かっていないくせに。私がどんな思いでここまでたどり着いたか知らないで!


気がついた時には気持ち任せに怒鳴りつけていた。


しかもその後も、いちいち彼の態度や言動に引っかかって目くじらを立て続けた。


自覚している。


私の悪い所は、人に自分の意見を押し付けすぎるところだ。


分かっているのに、一度頭に血が昇ると止まらなくなる。


自己嫌悪に思わず眉間にシワがよった。


いやだわ、跡が付いちゃう。


ミコトは眉間をそっと指で軽くほぐす。


そしてふと、後ろを歩く椿の事を思った。


椿は私に甘い。私がどんなに理不尽に怒ろうとも変に気を使ったり、見放したりはけしてしない。


どうして椿は私を切らないの?


時々強く問いただしてみたい衝動に駆られる。


そんな気持ちを誤魔化すように、くるりと勢いよく向きを変えて、椿にわざと作り笑いを向ける。


「今のむかついた。私、キャラメルカプチーノ。椿の奢りね」


「げぇ」


椿から心底嫌そうな呟きが漏れる。


こうした時の彼の声には温度が通って、ミコトはそれが好きなのだ。


姫宮ミコトは満足そうに微笑み、椿千里に再び背中を向けて歩きだした。