割れんばかりの拍手の音に我に帰る。壇上では今まさに武藤先輩が演奏を終え、集まった人達にお辞儀をし終えた所であった。
隣で東城さんたちも同じように拍手を送っている。
俺はというと衝撃の余韻に未だ体を貫かれたままであったが、周りの人に合わせて今更ながらあわてて拍手を送った。
その時、壇上で柔かな笑みを浮かべていた武藤先輩と目が合った。先輩は一瞬無表情になったかと思うと、すぐに人の悪い笑みを浮かべた。
あっなんかやばい気が…
そう考えた次の瞬間、先輩が全速力でこちらに駆けて来るのが見えてギョッとする。
「あの、鷹夫さん…東城さん!俺、先に帰ります!」
そう早口でまくし立てて、返事が返ってくる前にプリンを鷹夫さんに押し付けては俺も走り出した。
な、何なんだ!なぜ追ってくる!
しかしとにかく全力で走る。あの人の悪い笑みは嫌な予感しかしなかった。
病院を出るまではよかったが、入り口の自動ドアを潜るのに少し戸惑ってしまい追いつかれた。
「おい。透…なぜ逃げる?」
先輩に腕を掴まれたと同時に噛み付く。
「あなたが追ってくるからでしょう!先に行っておきますけど僕がここにいるのはたまたまですからね!断じであなたの演奏を聴きに来たわけではない!」
「だったら何だと言うんだ!」
珍しく大きな声を出す武藤先輩に俺は抵抗していた動きを止める。掴まれた腕に力が入り思わず武藤先輩を見つめた。そして思いの外真剣な表情に返す言葉を失う。
「透、君がもしあの場に偶然いたと言うならばなおさら縁があるのだと思わざるを得ないな。僕は市民文化会館にいると確か伝えたはずだ。しかし今日は急遽ボランティアが入ってしまったから…君を待っていられないことを僕は気にしていた」
彼の伏せられた目元を縁取る鳥の羽のように長い睫毛が悲しそうに揺れる。そして次の瞬間、息を止めるほど力強い眼差しを向けられ、たじろいだ。
「そうしたら会えた。君は僕の演奏を聴いてくれた。僕は、君が隣で一緒に弾いてくれたらと思って弾いていたんだ。透…これはもう運命だろう?」
「僕には…無理ですよ」
あなたの演奏に付いて行くなんて俺には出来ない。弾かなくとも分かる。余りに力量が違いすぎるんだ。
顔に笑顔を浮かべようとするが上手くいかない。変な具合に歪む。吐き出した言葉は自分でも呆れるほど自嘲気味ていた。
「僕のこの間の演奏を聴いて何をどう感じたか分かりかねますが、僕なんかじゃとてもじゃないが先輩の相手役はつとめられません」
離してください。そう言うと武藤先輩は掴んでいた腕を緩めた。俺は先輩の顔を見ずにその場を立ち去る。背後からつい呟いてしまったという先輩の声が聞こえた。
「君が…弾かないのか…」
その声は唖然としていて、絶望しているようにも聞こえたが俺は無視を決め込んだ。何かを考える前に思考をシャットダウンする。
俺はもう、ピアノなんて弾かない。
隣で東城さんたちも同じように拍手を送っている。
俺はというと衝撃の余韻に未だ体を貫かれたままであったが、周りの人に合わせて今更ながらあわてて拍手を送った。
その時、壇上で柔かな笑みを浮かべていた武藤先輩と目が合った。先輩は一瞬無表情になったかと思うと、すぐに人の悪い笑みを浮かべた。
あっなんかやばい気が…
そう考えた次の瞬間、先輩が全速力でこちらに駆けて来るのが見えてギョッとする。
「あの、鷹夫さん…東城さん!俺、先に帰ります!」
そう早口でまくし立てて、返事が返ってくる前にプリンを鷹夫さんに押し付けては俺も走り出した。
な、何なんだ!なぜ追ってくる!
しかしとにかく全力で走る。あの人の悪い笑みは嫌な予感しかしなかった。
病院を出るまではよかったが、入り口の自動ドアを潜るのに少し戸惑ってしまい追いつかれた。
「おい。透…なぜ逃げる?」
先輩に腕を掴まれたと同時に噛み付く。
「あなたが追ってくるからでしょう!先に行っておきますけど僕がここにいるのはたまたまですからね!断じであなたの演奏を聴きに来たわけではない!」
「だったら何だと言うんだ!」
珍しく大きな声を出す武藤先輩に俺は抵抗していた動きを止める。掴まれた腕に力が入り思わず武藤先輩を見つめた。そして思いの外真剣な表情に返す言葉を失う。
「透、君がもしあの場に偶然いたと言うならばなおさら縁があるのだと思わざるを得ないな。僕は市民文化会館にいると確か伝えたはずだ。しかし今日は急遽ボランティアが入ってしまったから…君を待っていられないことを僕は気にしていた」
彼の伏せられた目元を縁取る鳥の羽のように長い睫毛が悲しそうに揺れる。そして次の瞬間、息を止めるほど力強い眼差しを向けられ、たじろいだ。
「そうしたら会えた。君は僕の演奏を聴いてくれた。僕は、君が隣で一緒に弾いてくれたらと思って弾いていたんだ。透…これはもう運命だろう?」
「僕には…無理ですよ」
あなたの演奏に付いて行くなんて俺には出来ない。弾かなくとも分かる。余りに力量が違いすぎるんだ。
顔に笑顔を浮かべようとするが上手くいかない。変な具合に歪む。吐き出した言葉は自分でも呆れるほど自嘲気味ていた。
「僕のこの間の演奏を聴いて何をどう感じたか分かりかねますが、僕なんかじゃとてもじゃないが先輩の相手役はつとめられません」
離してください。そう言うと武藤先輩は掴んでいた腕を緩めた。俺は先輩の顔を見ずにその場を立ち去る。背後からつい呟いてしまったという先輩の声が聞こえた。
「君が…弾かないのか…」
その声は唖然としていて、絶望しているようにも聞こえたが俺は無視を決め込んだ。何かを考える前に思考をシャットダウンする。
俺はもう、ピアノなんて弾かない。
