「な・・・んで?」
思わず呟きが漏れた。
それはどうしてここに武藤先輩がいるのかということからではない。昨日の先輩の話しと鷹夫さんの話しを統合すれば、今この病院でコモレビという団体の中で武藤先輩がピアノを弾いている。その事実と過程を容易に想像し、説明することができるからだ。
だからこの呟きとして出た「なんで」には相変わらず武藤先輩の演奏に俺が心を動かされているという事なんだ。
俺の心拍数は曲の盛り上がりと共に上がり続け、喉を緩やかに締め付ける。目には涙の膜が張り付き視界をぼやけさせるのだ。
なぜだ、どうして武藤先輩の演奏に俺はこうも心が乱れてしまうんだ?
まるで分からない、そう“思おう”とした時に
乳白色のピアノを金に縁取る正午の光
そして演奏者たちが皆かっちりとした黒いスーツ姿なことから、連想してしまった。
病院特有のやや張り詰めたような、独特な雰囲気がさらにそうさせたのかもしれない。
赤いベルベットの世界
その奥に広がるぼやけた闇色の世界
突き刺さるようなライトの熱の痛み
そこで俺はピアノを弾いている。弾いていたんだ。
俺は思いっきり唇を噛んだ。そうしていないと涙が落ちてしまいそうで怖かったから・・・
今分かった。いや、本当は初めて聴いた時から俺は分かっていたんだ。分かっていてずっと逸らしていた現実―――
それは武藤先輩が本物だということ、あの人は紛れもない天才だ。天性のピアニストになれる逸材なのだ。
