俺は頭が痛くなってきて眉間を押さえた。


「なんだ?」


「僕の話し、聞いていてくれました?」


「あぁ無理なんだろ?」


そう、事も無げに言われ脱力する。


「なら楽団コモレビとやらを見に行くのは、おかしいじゃないですか!!」


「どうして君はそう毎回いきり立つんだ?別に無理に参加しろとは言っていないだろう。どんな活動をしているのか君に見てもらいたいだけだ。それとも・・・君は連弾を?」


「・・・いえ、まぁないですけど」


歯切れの悪くなった透に武藤は畳みかけるようにしてまとめにかかる。


「なら一度見に来い。入るかどうかは実際に見てからでも遅くはないだろう?」


そうしてまた息をのむほど優雅に微笑む。


そんな風に言われたら、こちらが言葉を呑まないわけにはいかない。


まるで見たからには俺がやると、確信しきった武藤先輩の態度が悔しい。


裏を返せば余程自分の・・・自分たちの演奏に自信があるということか。


俺は怒りにも似た、沸々と自分の内側から暗褐色の感情が溢れ出してしまいそうな感覚に襲われる。


なんだ、これ?


「・・・でも」


そんな自分の暗い感情が心持ち悪く、思わず渋る声音をあげると武藤先輩はとうとう呆れ顔になった。


「本当に君は強情だな。あれだな、透は100でなければ0でいいと思っているだろう?」


「え?」


「君は少々潔すぎる。白黒の境界があまりにはっきりしすぎているな」


それだけ言うと先輩はふいと窓の外へ視線を向けてしまった。


100か、0


今しがた言われたことを口の中で反芻させ、どういう意味なのか考える。


その後、武藤先輩はそれ以上何も言わなかった。


残りの3日間。相変わらず休み時間や昼休みを一緒に過ごすことはあったが、特に土曜日に来るか来ないかも確認せず―――


ついに曖昧なまま土曜日は来てしまった。


そして俺の長い夏休みが始まる。