無遠慮に眺めていると、視線がばっちりとあった。
「言っておくが、僕は日本人だぞ?名前も武藤と至って日本家名だ。どうだ、渋いだろう?」
そう言って思わずため息をついてしまうほど眩しい笑みを向けられる。
俺はわざわざ本人が言い出すほど、自分が非常に失礼な視線を送っていた事に気がついて、一気にばつが悪くなった。
「すっ、すいません」
「別に謝ることはないさ。異国の血は確かに入っている。半分だがな」
そう言ってふっと口の両端を持ち上げ、余裕の笑みを浮かべた彼に俺はますます恐縮してしまう。
「君は、ピアノは好きか?」
唐突に尋ねられた質問に俺は固まる。
しかし先輩・・・武藤先輩は俺の返事も聞かず、すでにピアノへ向き直っていた。
俺からはちょうど彼の背中を眺める体である。
「一人で弾くのも飽き飽きしていてね。一曲聴いてくれないか?」
またも返事を聞かずに、武藤先輩は鍵盤に指を滑らせた。
わぁー!待て!そんないきなり!?
俺の心の準備がまだ出来ていないにも関わらず、しっとりとした旋律が部屋一杯に途端に広がりだす。
弾き初めは依然気持ちが先走りをしていたが、曲の優雅さに合わせるように、俺は徐々に落ち着きを取り戻していった。
そして一つの確信を得る。
やっぱりこの人だ。この人が俺の激情の原因だった。
俺はゆっくりとそう呑み込んでいったが、今度はあのどうしようもない気持ちには苛まれなかった。代わりにすとんと何かが俺の心に滑り込んでくる。
一度も聴いたことの無い曲。
それなのになぜか懐かしく、切ない。
俺は気がつくときちんと上体を起こし、しっかりとした体勢で目をつむり、その不思議な曲に聴き入った。
自然と感嘆が漏れる。
一体いつぶりだろうか?
音楽に心踊らされるのは・・・
