たぶんまた遊びの誘いだろうなぁ・・・
そう思った時に、着信を知らせる画面が急に呼び出された。
音もバイブレーション機能をも一切たっている俺の携帯には、ひたすら“キョウジ”という男の名前がけたたましく点滅している。
俺は画面が元に戻るまでそれをじっと眺め、少し経ってたから着信拒否の設定を一つした。
ごめんキョウジさん。もうあんたとは連めない。
せめて心の中で謝ってから、俺は資料室を後にする。
廊下を歩いていると、どこからかピアノの音色が聞こえてきた。
前にも同じような事があったな・・・
これはドビュッシーの月の光・・・個人的に馴染みのある曲だった。
だからこそ自分はどんどん頑なになってゆく。
曲が盛り上がりを見せるにつれ、耳を塞ぎたくて堪らない。
音がどんどん大きく響いてくるようだ。
比喩ではない。自分は今、音源元へ向かってどうやら進んでいるようだった・・・
頭が痛い、吐き気がする。
反射で月の光の譜面が浮かび上がってくる。
なぞってしまう。
透の指が突然ピクリと反応した。
「あぁ・・・」
言葉にはならなかった。
どんなに避けていても、聞こえないふりをし続けても
結局覚えている。俺の指が、体が、全身で覚えていた。
嫌だ、思い出したくない!
俺は急に力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまった。
視界は最後に見た景色どうり、ベルベットの赤に染まっていた。
