「知らないわ、あの人秘密主義だから」


「まぁな」


椿はまたも気のない返事を返し、もうすぐ職員会議の終わる時間になるから気をつけろよと、忠告を添えた。


私は時刻を確認して、急いで教室を後にする。


一応自分の飲み物代くらい払おうとしたけど、瀬川くん同様。


椿は次に何か変わりに奢ってくれればいいからなどと言って、結局受け取らなかった。


仕方なく何となく返しそびれていたお釣りの代金だけを渡して、椿にお礼を言うに留めて来た。


廊下を早歩きで進みながら、椿があまりお金に頓着しないことを思う。


・・・あいつ財布持ってないのかしら?いつもお札ですらポケットに剥き身で入れているし・・・


椿って、実はハイソよね。


何て勝手に考えながら、ミコトは最終的に廊下を走った。


目的地に近づくほど、綺麗なメロディーが耳を掠める。


最初は断片的な音しか聞き取れなかったが、徐々に一つの曲だとミコトが理解できるところまで来た。


何度も耳にしてきた曲だった。歌もつけて昔からよく好んで披露してくれるあれだ。


「全く・・・あの人ったら」


気づくとミコトは呟いていた。


確かに聴くのは大好きよ。でも、学校では遠慮してもらいたいわね。


どうも目立って適わないわ。


最後の階段を上りきり、ミコトは第三音楽室の扉を引いた。


「ちょっと・・・千鶴」


教室に踏み込むとより一層、音が鮮明に感じられる。