恋が生まれた日

「......別に」


短く返す


「別にっていう顔じゃなかったですよ」


しつこく聞いて来る木下先生がめんどくさくなり冷たくあしらう


「もともとこういう顔です」


「朝比奈先生面白いこと言いますねー」と木下先生は笑う


「朝比奈先生は普段、もっとこう、キリっとした顔してますよ」


そう言いながら指で目尻を釣り上げながら言う


「だけど、さっきはこう」


今度は逆に目尻を下げる

1人で顔遊びをしているのを見向きもせず歩き続ける

置いて行かれた木下先生は慌てて紬のもとへ駆け寄る


「冗談ですよ!

でも、なんか...寂しそうな顔してました」

「......は?」


ドクン、と紬の胸の奥が鳴る


「探してるんですよね?」

「......誰を?」


にやりと笑う木下先生


「橘先生でしょ?」


その名前を出された瞬間

一瞬、息が止まる


「……違う」


反射的に否定する

けれど

その“間”が、何よりの答えだった

木下先生はそれを見逃さない


「分かりやすいですね」


くすっと笑う

少しだけ間を置いて


「それ、好きじゃないですか?」


軽く、でもはっきりと告げる


「……違う」


もう一度否定する

だけど、ハッキリと否定できなかった

これまでの感情が少しずつごまかしの効かないところまで浮き上がってくる

ここで認めればどれだけ楽になるか

だけどそれをしなかった

認めた瞬間今まで通りではいられなくなる気がして

それが、怖かった


「......仕事、するよ」


それだけ言って足早に動き出す


「あ、逃げた」


後ろから聞こえる声

聞こえないふりをした