恋が生まれた日

「.....ご、ごめんなさい」

「急に立つからだ、収まるまでこうしとけ」


橘先生の胸元におさまった紬は抱き抱えられる形で捕えられた

ドクドクと高まる鼓動は紬のものが橘先生のものか分からない


「……ほら見ろ、これで帰れるって言えるか?」


少し呆れたような声
けれど、その腕は離そうとしない。

「……でも……」

「でも、じゃない」

ぴしゃりと遮られる
そのままゆっくりとベッドに降ろされるが、手首は軽く掴まれたままだった

逃がさない、とでも言うように

小さくため息をつきながら、点滴の残量に目をやる


「もうちょっとここで休め

動けるようになったら、そのとき考える」

「……先生は?」

「当直だ」

当たり前だろ、と言わんばかりの返答

けれど紬は知っている
さっきからずっと、必要以上に自分のそばにいることを


「……私、ひとりで大丈夫です」


そう言った瞬間、手首を掴む力がわずかに強くなる

「大丈夫じゃないからこうなってんだろ」

低い声

でも怒っているわけじゃない

むしろ、どこか抑えているような響き

「……お前さ」

一瞬、言葉を選ぶように間が空く

「こういうときくらい、人に頼れ」

その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。

返事ができない紬の手を、橘先生はそっと離す

けれど今度は、逃げないように布団を整えながら言った

「俺はちょくちょく抜けるが、様子は見に来る」

「……はい」

「勝手に帰るなよ」

「……帰りません」

小さく答えると、橘先生は満足したように一度だけ頷いた

ドアの方へ向かいかけて、ふと足を止める

「……あと」

振り返らないまま、ぽつりと落とす

「無理して倒れられる方が、よっぽど迷惑だ」

その言葉に、紬の胸がまた大きく鳴る

優しいのか、厳しいのか分からない
でも――

そのどちらもが、自分に向けられていることだけは分かった