恋が生まれた日

「......ごほっ」

次、目覚めたとき咳の症状が出始め、頭痛もしている

喉を潤そうと水を取りに起き上がる

依然として熱は高いみたいでクラクラする

「......っ」

座った状態で収まるのを待つ

ガラっとドアが開く音がする


「起きてたのか、...どうした?」

「めまいが......」


声のする方を向けないが、いつもの声がして少し安心する

「まだ寝とけ」と言われるが水が欲しい紬はそう伝える

橘先生は紬の机の上にある水を取ってきてくれた

普段は見せないその優しさに紬の心は奪われそうになっていた

水を一口飲みめまいがおさまった紬は大人しく横になる


「一応、インフルとコロナの検査はしたがどちらも陰性だった」

「すみません...」

「お前は全部が全力なんだよ

背負わなくていいものまで背負って...

少しはサボることを知れ」

「すいません...」


橘先生の紬に対する気持ちが少しずつ聞かされていく

紬はそんな気持ちに気づかず、申し訳ないという思いしかなかった


「今日は帰れ、といいたいところだが、

その状態だと難しいか」


職場で療養しても気は休まらない


「大丈夫です、帰れます」


収まったはずのめまいが急に立ち上がったことで再び襲って来る


「......っ」


そのままフラっと倒れそうになる


ボフっ


紬に伝わってきたのは床ではなく温かみのある感触だった


「.....ご、ごめんなさい」

「急に立つからだ、収まるまでこうしとけ」


橘先生の胸元におさまった紬は抱き抱えられる形で捕えられた

ドクドクと高まる鼓動は紬のものが橘先生のものか分からない


「……ほら見ろ、これで帰れるって言えるか?」


少し呆れたような声
けれど、その腕は離そうとしない。

「……でも……」

「でも、じゃない」

ぴしゃりと遮られる
そのままゆっくりとベッドに降ろされるが、手首は軽く掴まれたままだった

逃がさない、とでも言うように

小さくため息をつきながら、点滴の残量に目をやる


「もうちょっとここで休め

動けるようになったら、そのとき考える」

「……先生は?」

「当直だ」

当たり前だろ、と言わんばかりの返答

けれど紬は知っている。
さっきからずっと、必要以上に自分のそばにいることを


「……私、ひとりで大丈夫です」


そう言った瞬間、手首を掴む力がわずかに強くなる

「大丈夫じゃないからこうなってんだろ」

低い声

でも怒っているわけじゃない

むしろ、どこか抑えているような響き

「……お前さ」

一瞬、言葉を選ぶように間が空く

「こういうときくらい、人に頼れ」

その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。

返事ができない紬の手を、橘先生はそっと離す

けれど今度は、逃げないように布団を整えながら言った

「俺はちょくちょく抜けるが、様子は見に来る」

「……はい」

「勝手に帰るなよ」

「……帰りません」

小さく答えると、橘先生は満足したように一度だけ頷いた

ドアの方へ向かいかけて、ふと足を止める

「……あと」

振り返らないまま、ぽつりと落とす

「無理して倒れられる方が、よっぽど迷惑だ」

その言葉に、紬の胸がまた大きく鳴る

優しいのか、厳しいのか分からない

でも——

そのどちらもが、自分に向けられていることだけは分かっ