恋が生まれた日

ドカっ、と大きな音を立て椅子に座る

幸いにもほとんどがお昼に行っておりその音を聞いたものはいなかった

ちょうど同じタイミングで外来に入っていた橘先生も帰ってきた


「おぉ、戻ってたのか

ちょうどいい、飯行くぞ」

「......はい」


紬は食欲がなかったが回復させるためには食事が大事なのを知っている

無理矢理にでも食べたらよくなるだろうと思い立ちあがろうとする


ガタン


「......っ」


力の入らない足はよろけてしまった


「何してんだよ、大丈夫か?」


橘先生はファイルを机に置いてこちらへ来る

俯いたままの紬を見て橘先生は少し慌てている


「足、打ったんか?」


返答も、起きあがろうともしない紬に様子がおかしいと思ったのか覗き込む橘先生

そこには顔を赤くさせ、荒い息遣いをしている様子があった

橘先生は手を額に当て首元にも持ってくる


「......ん」


少しくすぐったかったのかその手を退けようとする

その手は掴まれ今度は脈拍を捉えられた

少ししたらその手をすっと離して


「体調悪いのに無理するからだ

自分の管理ができなくて

患者なんて治せるわけないだろ」


低い声が紬に響く

いつもなら気にしないお叱りだが

身体が弱っているときには込み上げるものがある

ただでさえ、小さい紬がさらに小さくなる


「......はぁ」


橘先生が一息つくと紬をひょいと持ち上げる

お姫様抱っこをして


「......っ、おろしてください」


いきなり持ち上げられて慌てる紬

顔が真っ赤なのは熱のせいじゃない

照れのせいだと認めたくない紬がいた


「落ちるぞ」


そう言う橘先生もこころなしか嬉しそうにも見える

紬はそんな表情を見る余裕はなかった