橘先生は紬の隣に腰をおろす
そしてぽつりと喋り出す
「全部背負わなくていい
......救えなかった命まで自分のせいにするな」
紬は何も言えない
橘先生は続ける
「俺が研修医時代、恩師に言われたんだ
産婦人科(ここ)は唯一、命を迎える場だってね
こんな奇跡な科、他にはないって」
紬は思わず顔をあげる
「......じゃあ、さっきの人はなんで......っ
先生がいて......なんで......っ」
今まで我慢していた涙があふれてきた
「だから、奇跡なんだよ」
紬は橘先生の声が入らない
「俺らがいたところで何もできない
無事に産まれてくるかどうかは......正直、祈るしかない」
「でも——
救える命は救いたい、お前だってそうだろ?」
橘先生は紬をそっと引き寄せる
「......俺だって悔しいよ」
その一言で我慢の限界が来た
紬は橘先生の胸に顔を埋めて
子どものように泣きじゃくる
時折、声にならない嗚咽が漏れる
橘先生は何も言わず、ずっと紬の頭を優しく撫でていた
胸の奥の痛みは消えないままだった
それでも——
紬は覚悟を決め、橘先生の胸元から離れる
そのとき
そっと頬に手を添えられる
優しく持ち上げられた視線の先に穏やかな表情の橘先生がいた
橘先生の目はまっすぐ紬を見ている
「......っ」
その視線から逃れることができず、息が止まりそうになる
次第に近づいてくる橘先生
思わずびくっとしたが、何も言わず指で涙を拭われる
「......それでいい
それがお前だ」
低い声が紬に響く
すっと手を離し紬の頭をポン、と叩いて立ち上がる
そのまま近くの診察室へと消えていく
高まった鼓動を落ち着け、よしっと気合いを入れる
ここで立ち止まる訳にはいかない――
命を迎えるこの場で
止まることは許されない
前を向いて一歩ずつ、確実に、歩き出した
紬の背中が見えなくなった後
「......橘先生って、恋愛不器用ですね」
と小さく笑う看護師達
「余計なお世話だ」
とそっけなく返す橘先生
けれどその視線はしばらくの間
紬が消えていった方向から離れなかった
そしてぽつりと喋り出す
「全部背負わなくていい
......救えなかった命まで自分のせいにするな」
紬は何も言えない
橘先生は続ける
「俺が研修医時代、恩師に言われたんだ
産婦人科(ここ)は唯一、命を迎える場だってね
こんな奇跡な科、他にはないって」
紬は思わず顔をあげる
「......じゃあ、さっきの人はなんで......っ
先生がいて......なんで......っ」
今まで我慢していた涙があふれてきた
「だから、奇跡なんだよ」
紬は橘先生の声が入らない
「俺らがいたところで何もできない
無事に産まれてくるかどうかは......正直、祈るしかない」
「でも——
救える命は救いたい、お前だってそうだろ?」
橘先生は紬をそっと引き寄せる
「......俺だって悔しいよ」
その一言で我慢の限界が来た
紬は橘先生の胸に顔を埋めて
子どものように泣きじゃくる
時折、声にならない嗚咽が漏れる
橘先生は何も言わず、ずっと紬の頭を優しく撫でていた
胸の奥の痛みは消えないままだった
それでも——
紬は覚悟を決め、橘先生の胸元から離れる
そのとき
そっと頬に手を添えられる
優しく持ち上げられた視線の先に穏やかな表情の橘先生がいた
橘先生の目はまっすぐ紬を見ている
「......っ」
その視線から逃れることができず、息が止まりそうになる
次第に近づいてくる橘先生
思わずびくっとしたが、何も言わず指で涙を拭われる
「......それでいい
それがお前だ」
低い声が紬に響く
すっと手を離し紬の頭をポン、と叩いて立ち上がる
そのまま近くの診察室へと消えていく
高まった鼓動を落ち着け、よしっと気合いを入れる
ここで立ち止まる訳にはいかない――
命を迎えるこの場で
止まることは許されない
前を向いて一歩ずつ、確実に、歩き出した
紬の背中が見えなくなった後
「......橘先生って、恋愛不器用ですね」
と小さく笑う看護師達
「余計なお世話だ」
とそっけなく返す橘先生
けれどその視線はしばらくの間
紬が消えていった方向から離れなかった
