恋が生まれた日

ついに、産婦人科研修の最終日がやってきた

たくさんの患者、症例、そして分娩に携わってきた

紬にとってどれも忘れなかった

その中でも1番は葵

2度目の姿を見ることなく紬は去っていく

葵にはもう選択肢がない――

そしてあれ以降なんとなく気まずくなった橘先生とも今日で最後

もやもやが残るまま産婦人科最後の外来を始める


「先生、またね」

「戻って来てね。私、紬先生じゃないと嫌よ」


多くの患者が紬に声をかけてくれる

別れを惜しんでくれる人がこんなにもいる

紬は胸がいっぱいになった


「紬先生、またね

戻ってきたら1番で会いに来るから!」


そんな嬉しい言葉をくれる患者を最後に外来を終える

診察室をデスクを片付けて気持ちばかりか少し掃除する

看護師に「お疲れ様でした」と声をかけ、診察室を出る


夕陽が差し込む待合室

だいぶ日が伸びたな――

と紬は季節の移り変わりを感じていた

窓から一直線に伸びる光から外れたところに黒い影がある

人?――

すでに診察時間は終わっているはずだ

もしかして見逃してしまった人がいるのかと焦った紬は影の方へ行くことにした


そして――



「......葵...ちゃん?」