恋が生まれた日

緊急のオペを終え、2人は医局に戻ってきた

橘先生が入れてくれたコーヒーを飲みがらゆっくりとした時間を過ごしている


「あの状況でよく判断できたな」

「はい、あれしか思い浮かばなかったもので」

「36週だったからギリギリ救えたが、

もうちょっと早かったら胎児は救えなかったかもしれない

他のアプローチも頭に入れとけ」


いつも厳しい橘先生からお褒めの言葉をいただき紬は嬉しくなっていた


「だがしかし、あの縫合は下手くそだ」


紬のテンションは急降下

なるべく痕が残らないように丁寧に縫っていた

そこは同性として譲れないところだ

だからその分時間がかかってしまった


「残らないようにしたい気持ちも十分に理解できる

実際俺もそうしてる

ただカイザーをなかったものにしようとするのは間違ってると思う」


やけに真剣な顔でそう言う

紬はその真剣な眼差しに引き込まれて聞いた


「何でですか」


橘先生は紬の方を向く


「勲章だ」

「……勲章ですか?

経膣の場合は勲章がないってことですか?」


橘先生はフッと笑う


「そうじゃない

このご時世でもいまだにカイザーは楽っていう認識がある

その考えはおかしいだろ?」


紬はうんうんと頷く

カイザーで産んだら義母からネチネチ言われ、挙げ句の果てに子どもがいうことをきかないのはカイザーで産んだからという話を聞いたことがある


「それにカイザーって日本語で帝王って意味らしいよ」


いきなりふざけたことを言う橘先生

そんなことある?と紬はおかしく思えたがスマホで検索してみる


ーカイザー(Kaiser)はドイツ語で皇帝や帝王を意味する言葉ですー


「……本当だ」


橘先生は衝撃を受けている紬が面白いのか、今まで見たことのない笑顔で笑っている


――普段は厳しいのに、そんな顔することあるんだ――

初めて見るその表情に、紬は思わず見惚れてしまう

橘先生はそのままグビっとコーヒーを飲み干し立ち上がる


「まだまだ勉強が足りないってことだ

残り少しもビシバシしごいていくから

へこたれんなよー





紬ちゃん」





「……えっ?」



突然の名前呼びに戸惑いを隠せない紬

すでに1人になった医局で顔を真っ赤にさせていたら

すれ違いに入ってきた先生に

「朝比奈先生、顔真っ赤だよ、熱でもある?」と心配され、さらに顔を赤くする紬であった