ミュージックスタート

時は次の日の放課後。
「ふぁ〜授業簡単すぎてつまんなーい。」
琴ちゃんが眠たそうな瞼を開き、呟いている。いつもに増して眠そうだ。
「もう、そういうこと言わないの。怒られるよ。」
「私も授業が簡単だと言える頭になりたいよ。」
やはりどこまで行っても地頭が良い人とそうじゃない人とは違うのだと実感する。私なんか毎日2時間は勉強してるのにそこそこな成績だ。
琴音の歩幅似合わせるようにいつもよりゆっくり歩いていると、校門に何か人だかりができていた。嫌な予感がして近寄って見るとやはりミカが真ん中にいるではないか。しかもいかにも不機嫌そうな顔をして今にも抜け出したそうにしている。
「っていうかさ。双子で全く声も顔も一緒なのになんで一発見ただけでわかるの?何か見分けるコツとか。」
実琴が手を顎に当てて考える仕草をする。言われてみればそうだ。なんで自分はあの双子を見分けられるのだろう。
「雰囲気ですね。ミカちゃんはツンとしてるけどリオちゃんは丸いっていうかほわほわしてるっていうか。」
必死に考え、出たのがその答えだ。
「へぇ。私には良くわかんないや。」
実琴がつまんなそうに答える。
すると、私に気づいたミカはトコトコと近寄ってきた。あまり目立ちたくないのだがここで隠れたりしたら流石に傷つくだろう。皆んなが見ている中、
「遅いじゃない。早く帰りましょ。」
と言って私の手を引いていった。混乱する私をよそにズンズン歩いて行く。何かおかしいことに気づいたのか琴音と実琴も走って追いかけてくれた。
「ど、どうしたの?」
「仕方ないでしょ?今日はリオも居ないし帰る人がいないんだもの。不審者が出るっていうから1人で帰るわけにもいかないし。」
深いため息をつきながらボソボソという。確かに不審者が出るとHRで校長先生が言っていた気がする。ただそれよりも気になった事があったので恐る恐る聞いてみた。
「もしかして友達が居なかったりとか…するの?」
「べ、別に友達が居ないわけじゃないもん!作らないだけだし。」
「人々はそれをぼっちと呼んでいるんだよ。」
出会ってからまだ2日と経ってないのに色んなことを知ってしまう。ただ助けただけなのに。いたたまれない罪悪感に浸りながらもまた新しいことを知る。図星なのかミカは俯いてしまった。そんな彼女に声を掛ける。
「じゃあ友達になろうよ。私とミカちゃんで。」
私も1人の寂しさはよく分かっている。ミカもそうなのだろう。皆んなは友達とあんなキラキラと笑っている。そんな皆んなが羨ましくて。なんで自分はああはなれないんだろうと思って憎らしくて。
ミカはパァとキラキラな笑顔をしたと思ったらそれは一瞬の話ですぐにいつもの顔に戻った。しかし、口元がニヤリとしている。
「そこまで友達になりたいっていうんならなってあげても良いわよ。特別にね。」
やっぱり素直じゃない。気づけば実琴と琴音も追いついていた。そこで琴ちゃんがさっきの眠気はどこに行ったのかはーいと元気な声をあげながら答えた。
「じゃあ私もミカちゃんと友達になる〜。」
「もちろん私も。ツンデレを生で拝ませてもらうわ。」
快く賛成してくれた2人の優しさに心打たれながらもくるりと振り返っていった。
「これから宜しくね。ミカちゃん。」
「もちろんよ。」
そう言うミカは笑っていた。澄み切った笑顔で。ほらやっぱり可愛いじゃん。我ながらそう思っていた。この時はまだ気づかなかった。ミカのある真実に。

迫りゆく真実
…だして。おもい…だして…。知らない女の子がそう私に呼びかける。何かを訴えるような必死な目で。最近そんな夢を見る。違和感だけがあとに残っている。
今日もあまり眠れずに目を覚ます。重たい瞼を擦り、カーテンを開け夏の日差しの眩しさを感じる。そこでようやく朝の始まり感じ、洗面所に向かう。
「あ、おはよう、琴音。早いわね最近」
母は長い髪を一つに結び、スーツの上に可愛いエプロンをきて台所に立っている。私達の朝ごはんを作っているのだろう。唐揚げのいい匂いがする。
うちは一人っ子で共働きだ。母は事務職でバリバリ働いているが、父は飽きっぽくて入社したと思ったらすぐ辞めてしまう。父によると理由は様々で上司がうるさいだの残業が多いだので適材適所があるはずなんだ!が口癖で自分にあった職場を探しているらしい。それでも母より稼いでいるのが14歳生きてきた中で1、2を争う不可解な謎だ。母も危ない仕事をしているんじゃ無いかと心配していたが、30後半があり得ないと私が一喝するとすぐ納得した。
今はまだ寝ているだろう。いびきが聞こえる。基本的に家族仲は良い方なので買い物なんかもよく行く。なのですんなり気になっていることを話した。
「なんかね。変な夢見るの。私に向かって訴えかけてるような。」
母は手を止めゆっくりと言った。
「へー。もしかしたらまだ未解決の問題があるんじゃない?」
「未解決な問題って…」
続けて母は言う。
「表面化されていないストレスや過去のトラウマ、現実世界での未解決な問題が夢という形で現れることがあるんだって。」
思い出すがこれと言って思い当たるものはない。スピリチュアルな所がある母の事なのでどうせ今回も同じだろう。特に何も思わなかった。やることもないのでご飯を食べ早めに家を出ようと支度を終わらせる。
「じゃ行ってくるわ。」
「友達でも待ってるの。実琴ちゃん?」
いつもより30分も早いのが気になるのか問いかける。
「実琴もそうだけど、音葉っていう子とも一緒なんだ〜。今度紹介するよ。」
「ええ!嘘。そんなわけ…」
母が大袈裟に疑惑の顔を浮かべる。私が友達を紹介することが珍しいのだろう。私だってそれくらいするしと思いながら音葉を待たせてもあれなのでドアに手をかける。
「い、行ってらっしゃい。」
歯切れの悪い返事を聞き流し家を出て軽快なステップを弾ませる。いつもと同じ道なのにひとが居ないからか空気が綺麗に感じる。
この前音葉が弾いてくれた聞き馴染みのある曲を口ずさみ歩く。調べても出てこず未だに曲名はわからない。
駆け足でいつもの待ち合わせ場所に来ると音葉はまだいなかった。いつもは音葉に先を越されてしまうので今日こそは一番乗りにきたかったのだ。ちなみにこの待ち合わせ場所は最初に音葉と会った公園前だ。2人とも知っている目印といえばここしか思いつかなかったので一本大回りの道を通っている。公園の中にある椅子に座り、少し肌寒くなってきたから厚着をしようかと考えていた時だった。
「キャッ」
肩に衝撃が走った。何事かと振り向くとニヤニヤしている京が居た。
「引っ掛かってやんの」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる京に怒りが湧いてくる。怒りを露わにするようにそっぽを向き腕を組む。低い声で「何ですか?こんな朝に」と言った。
「なんでって。居るからには声をかけるしかないっしょ。」
「どうしてそういう発想になるのよ。私に馴れ馴れしくすると勘違いされるぞ。」
あまりに女子慣れしている京に一言言ってやりたかった。
「勘違いって?」
不思議に思ったのか肩に手を置いたままさらに顔を近づける。だから嫌なんだ。京って奴は。昔から人懐っこいしお姉ちゃんが上に3人いるからイタズラには頭が回るのにこういうことに関しては鈍感で。なんで言ったらいいのかわからなくなる。本当に京は人をイライラさせるのが上手い。
「いい?うちらはもう中学生。小学生とは違うの。女子に触れない。近づかない。下の名前で呼ばない!そうしないと付き合ってると思われるの!」
「誰と誰が?」
またニンマリと笑みを浮かべている。ようやく分かったのだろう。これは確定でわかって聞いてる。
「私と、…京が。」
最後の部分は空気となって口から出ていく。
「へぇーそんなに嫌なんだ。」
京は少し拗ねたように呟く。その反応が想定の斜め上で不意打ちを喰らう。つい顔が赤くなったのを隠すようにベンチから立つ。
その言葉がでまかせなのか本当なのかは幼馴染の私でもよくわからない。
なんとなく気まずくて他の話題を探そうと周りを見渡してみると「うぁあー」と空気を切り裂くような悲鳴が聞こえた。
どうしたものかと2人揃って駆け寄る。そこには葉っぱだらけの音葉がうつ伏せになって寝転んで居た。
「音ちゃん!?大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ。あの坂からコケだだけなんで。」
音葉はなんとか顔を上げか細い声を出す。音葉が指す坂というのは5メートルはある色々な植物で囲まれた小さな山だ。小学生の頃よくここに隠れて遊んだのはいい思い出だ。
「どうしてあの山に登ったんだ?そのままくればよかったのに。」
京が不思議に思ったのか聞くと、音葉はばつが悪そうに答えた。
「2人が仲良さそうだったから邪魔しちゃ悪いかなって。」
遠慮しがちの音葉にはそう見えたのだろう。釘を刺すように真実を教える。
「違う、違う。私達付き合ってもないし仲良くないから。昔からの幼馴染だからそう見えるだけだよ。」
「そうそう。」
京も参戦して頷く。
「本当の本当に?」
「そう。本当の本当に。」
やっと分かってもらえたのだろう。疑いの目が消えた。制服についた葉っぱを払い立ち上がるのを見てふと思ったことを口にする。
「っていうか京と音葉初めましてだよね。自己紹介でもする?」
そういえばという顔をしたのち音葉が弾かれるように言葉を告げる。
「えっと、橋口音葉です。C組です。琴ちゃんのクラスに引っ越して来ました。よろしくお願いします。」
「三河京。A組。さっきも行った通り琴音との幼馴染。よろしくな。」
音葉に続けて京が自己紹介をする。すると、京が怪訝な顔で音葉を見つめていた。しかしそれは一瞬の事ですぐ普通の顔に戻った。
「はい、握手。」
「なんで」
「初めましての握手。大事でしょ?」
人懐っこい京にしては消極的に音葉の手を握った。音葉も慎重そうに手を差し出す。2人とも顔が真っ赤で初々しいカップルの様だった。自分からやれとは言ったものの、それを見て胸が締め付けられる様に痛かったのには気づかないふりをした。