「琴音、駅前にパフェできたんだけど行っ
ちゃう?」
「行く行く!さすが実琴わかってるじゃん。」
「それほどでも。じゃあいつ空いてる??」
「んー今日の放課後かな」
「了解」
これはまだセミの声が耳に焼き付いて離れないそんな私達の物語。
いかにも中学生らしい会話をしながらカバンの中のものを取り出す。
もう手慣れたものだ。
私が来るなり端っこの席からやってきたのは実琴。
基本的にサバサバしていて言いたいことはしっかりいう頼れるリーダータイプ。
顔も肌白く、ぱっちり二重でどこかでアイドル話やっていてもおかしくないくらいの美女だ。
誰とでも隔てなく接するので学年を超えて人気がある。
そんな彼女だが、年上の従兄弟に年齢=片思いをしていて今だに彼氏が出来たことがないらしい。
入学式、誰も知り合いがいなかった私に声を掛けてくれてからずっと仲良しだ。
「というか転校生来るんらしいよ。うちらのクラスに。」
教科書を出したところで手を止めた。
転校生は私にとって願ったり叶ったりの存在だからだ。
「マジ、初めてじゃない?転校生がうちらのクラスに来るの。楽しみだわ。」
「うん。噂だけどね。友達の友達の友達の友達から聞いた。」
「それは果たして友達と呼べるのだろうか」
「大体転校生が来ようが来まいがどっちでも良くね?何かが変わるわけでもないのに。」
「期待したって良いじゃん。
転校生は昔からの幼馴染で丁度空いていたのは隣の席。
しかもその幼馴染は超かっこよくて初日でファンができるほど。
昔は意地悪をしてくるただ嫌なやつだったけど時を重ねるうちにその幼馴染が好きだと気づいて…
遂に告白!返事は「俺も好きだよ。」って。憧れる〜」
「出たよ。琴音のメルヘンチック。
そんな夢物語あるわけないじゃん。
期待したって失望するの自分だからね。」
転校生に期待に胸を膨らませる私をよそに美琴は冷静だ。
そんな実琴に負けずに顔をしかめ、言い返す。
「わかってるよ。そんなの。ただそんなことあったらすごくない?」
「まぁそうだけどね。」
「そんな奇跡起きないかなぁ」
「ないに100賭けるわ」
「冷めてんな」
「実琴。ヘルプ〜」
「はいはーい。」
クラスの仲がいい子に呼ばれた美琴はめんどくさそうにえーと呟きながらそっちへ向かう。
私と話していたのにと悲しくなったがそんな考えはすぐに打ち消した。
美琴は私だけのものじゃない。
というか独り占めしようとも思わない。
自分もあの中に入ろうとすれば入れる。
他のみんなも特に何も思わないで入れてくれるだろう。
ただあの私といるよりも楽しそうな笑い声を聞くとどうも思ってしまう。
自分と居るよりもあの子といた方がいいんじゃないかと。
自分勝手すぎる考えを打ち消すように水筒をくるりと開け中の水を一気に飲む。
朝入れたばっかりなのでまだ口の中が冷たい。
この思いも全部全部水が流してくれればいいのに、なんてそう簡単にはいかなかった。
実琴はいい友達だ。
嫌なわけ無い。
成績も悪く無い。
なのに。
それなのに。
少女漫画に出てくるような転校生が現れてその子が私と仲良くなってくれる、なんて妄想をしてしまう。
もう十分なはずなのに。
まだ何かを求めている。
私は一体何がしたいんだろう。
自分で自分が嫌になってくる。
そう思うようになったのは多分あの日から。
時間は過ぎていくのに私の時は止まったままだ。
動かしてくれる誰かを待っている。
そんな人が来るわけ無いとわかっているはずなのに。
ガラガラとドアの音が鳴り響く。
「おっはよ〜ございます。」
その音と共に入ってきたのは担任のうっちーだ。
茶色の髪のボブでずっしりとした体型をしている。
年齢を聞いたら、「永遠の20歳なんで」と言い張るので呆れてしまった。
姿から想像するに30〜40代ぐらいだろう。しかし、授業が面白いとかで5本の指に入るくらい人気があるらしい。
現に私が居眠りをしていても特に注意しない。
「特に学生はは寝た方が勉強の効率上がるのよ」が口癖で学生の味方になってくれるのも人気の一つだろう。
「みんな昨日はよく眠れたかな?さっそくだけど転校生を紹介しちゃいます。」
その瞬間ザワザワしていた空気がガラッと変わった。
思わず飛び起きる。
こういう空気が私は好きだ。
いきなりというサプライズ感と期待、不安が入り混じるこの感じ。
仲良くなれるかな、なんて中2ながら思ってしまう。
「じゃあ入ってきて良いよ。」
その声と共に入ってきたのは腰あたりまで伸びているサラサラな髪を高めのツインテールで結んでいる女の子だ。
「はっ橋口音葉です。よろしくお願いします。」
とても小さい声だった。
みんなの頭にはてなマークが浮かんでいるのが見える。
「橋口音葉さんよ。みんな仲良くしてあげてね。」
見かねたうっちーが助け舟を出す。ようやく納得したようだ。
「音葉さんの席は、、、琴葉さんの隣ね。」
「こと、ね?」
「あぁわかるわけないものね。あそこよ。」
うっちーは空いていた私の隣の席を指す。
予感は当たった。
というか席は私の隣しか空いていないので当然だが。
その転校生は自分の席に着く前にぺこりと小さくお辞儀をしてくれたので私もお辞儀をし返した。
そのやりとりが面白くて思わずフッと笑ってしまった。
これから私の夢見たような物語が始まる。
そんな気がしたのは多分気のせいだ。
