刺繍に込めた本当の幸福

「ああ、シルヴァン。なんてことだ……。君はそのハサミで、自分の魂を切り売りしているのか。その赤色は、誰かの願いを叶えるための輝きじゃない。君の大切な『過去』を、無理やり糸に変えて流れた血の色だよ」

 南十字星の胸にある「よだかの星」が、彼の悲しみに呼応するように、ドクンと大きく、赤く波打ちました。

「君の影を見てごらん。……もう、足元の石ころよりも薄くなってしまっているじゃないか。そんな代償を払い、誰に何を願おうというんだい?」

 シルヴィンは、自分の影を見つめた後、目を瞑り考え応えました。
 ボタン止めの手は止めることなく、そっと呟くように伝えます。

「いいのです。たとえ私の大切な記憶(もの)が透きとおって消えてしまっても、愛する人が喜びの日差しを浴びているのなら。このハサミが私の手元にきたのには理由があるのだと思います。見えない風や流れる水にさえ、確かな命の震えがあるように。私はただ、このハサミで、彼女が自分自身を愛せるような『本当の姿』を切り出してあげたいだけなのです」

 南十字星はシルヴィンが悲しく映りました。少しでも希望をと、呟いてしまいます。

「シルヴァン……君は、あまりに純粋な『記憶の魔法』で服を縫いすぎてしまったんだね。自分の大事な思い出を少しずつ、糸に変えてしまった。……だが、絶望することはないよ。もし君が、永遠に姿の消えない、光り輝く服を仕立てたいと願うなら、二つの宝が必要だよ」