刺繍に込めた本当の幸福

 翌日夕方。お得意様の南十字星がお店にやってきました。

 彼は以前シルヴィンが仕立てた上着を着て、やってきます。
 首元から上では夜空をのぞかせ、その上に愛着あると思われる、古びたハットをかぶていました。

「やあ、シルヴィン。久しぶりだね」

「いらっしゃいませ、南十字星様。この町に来られていたんですね」

「ああっ、蠍座に用事があってね、その帰りだよ。途中でこの前ボタンが取れかかってね、悪いが、帰りの汽車の時間までに直して欲しいのだが」

 そう話し彼は、上着を脱ぎシルヴィンに手渡します。

 南十字星は上着を脱ぐと宇宙が現れます。
 いくつもの星が輝き、その中でも胸の辺りには、赤く光る星が輝いていました。

 シルヴィンは糸を取り出すため、引き出しを開けました。
 糸に手をなばす一瞬。ためらいをみせてしまいます。
 これは自身の影ではないと安心すると、すぐにボタン付けの作業に移ります。
 
 ボタンを付けている間、南十字星はシルヴィンの顔色が悪いことに気にします。
 少し沈黙をするように表情を見つめたあと、机の上で不気味なほど美しく、赤く冷たい光を放つハサミを凝視しました。
 
 彼の胸の赤い星が、まるで警告するように激しくまたたきます。
 店内の時計の針が刻む音さえ、凍りついたかのような静寂が訪れました。
 
 南十字星は、その古びたハットを握りしめ、震える声で呟きました。