刺繍に込めた本当の幸福

 その瞬間、ルミナの瞳にパッと火が灯りました。

「……シルヴァン!」

 魔法が解け、必死に逃げようとする彼女を、紳士の強欲な手が力任せに押さえ込みます。

「逃がさぬぞ。君は私の、最高級の飾り物になるのだ!」

 絶体絶命の瞬間、ルミナは決意しました。
 彼女は、自分をこの世界に繋ぎ止めていた、あの美しいドレスを脱ぎ捨てたのです。

 光り輝く青い布地が床に崩れ落ちると同時に、彼女の姿は一瞬で夜の風に溶け込み、透明なまま、汚れた会場から鮮やかに駆け出していきました。

 ルミナは、夜の風そのものになって、シルヴァンの店へと向かいます。
 向かう間、街からは聞くことのできなかった、噂話を耳にするのでした。

 仕立て屋は、ハサミに魂を売ってしまったんだと。
 愛する者のために、影を刻み記憶を失い、悪魔になってしまったのだと。

 街には見えない何かの、息を切らす声が走り抜けていました。
 ルミナは店のドアを勢いよく開け、駆け込みました。
 
 店内では、すべての影を使い果たしたシルヴァンが、魂の抜け殻のように椅子に座ったまま、深く静かな眠りに落ちていました。
 
 机の上には意志が抜けたように、赤黒く染まるハサミが転がっています。

 姿の見えないルミナが、震える声でその名を呼びます。