刺繍に込めた本当の幸福

 紳士はこれ見よがしに、自らの洋服の襟元を広げ、その裏地に潜む呪いを見せつけました。
 ルミナは、その禍々しい魔法に当てられ、瞳の輝きが抜け落ちるように、ふっと虚(うつ)ろな表情になりました。

「さあ、お嬢さん。私たちの出会いに、甘い乾杯をしようじゃないか」

 紳士の毛皮のように厚く、脂ぎった手がルミナの肩を抱き寄せ、耳元でねっとりと囁きます。

 彼の着ている服の裏側で、縫い込まれた影の糸が、まるで生き物のようにうごめくと、会場の温度が、一瞬だけ不自然に下がったかのようでした。

 ルミナは操り人形のように歩き出しましたが、紳士の視線に晒されたルミナのドレスは、彼の悪意を拒むように、より一層琥珀(こはく)の輝きを強く放ちまます。

 それはまるで、遠い場所で眠っているはずの主人の『警告』が、光となって溢れ出したかのように。
 彼女のドレスの裏側に隠された、たった一箇所の刺繍から放つように。

 それは、シルヴァンが記憶を失う直前、自らの最後の「影」を振り絞って縫い付けた、不器用な刺繡でした。
 伝わってきたのは、言葉を超えた熱。そこには、琥珀色の糸で、「ルミナ、愛している」という、魂の叫びが刻まれていたのです。