刺繍に込めた本当の幸福

 紳士は獲物を見つけた獣のような足取りで近づくと、恭(うやうや)しく声をかけました。

「こんばんは、お嬢さん。……失礼だが、お名前を伺っても?」

「はい。……ルミナ、と申します」

 その声は、リンドウの花が夜露に濡れて鳴るような、清らかな響きを持っていました。

「ほう。ルミナ。君が、あの……ルミナか」

 紳士の唇が、三日月のように歪みました。
 目の前の娘が、あの愚かな仕立て屋が命を削って守ろうとした「光」そのものであると確信し、彼は心の底から愉悦(ゆえつ)に浸る、意地悪な微笑みを浮かべるのでした。

 紳士は一瞬、きょとんと目を丸くしました。
 自分が手渡した「金の針」も「竜の髭」も、ただの安物だったはず。

 それなのに、ルミナが纏うドレスから溢れ出すコバルト色の神々しい光は何なのかと。
 それは、冷たい真鍮(しんちゅう)の針がもたらした奇跡ではなかったのです。

 偽りの道具であっても、そこに縫い込まれたシルヴァンの影――彼の命そのものが、安物の金メッキを本物の星の輝きへと変えてしまったのでした。

 けれど彼はすぐに、「まあ、どうでもいいことだ」と邪悪な笑みで思考を打ち消しました。