刺繍に込めた本当の幸福

 紳士がもったいぶって机の上に置いたのは、シルヴァンが喉から手が出るほど求めていた、あの金の針と竜の髭(ひげ)でした

 それはイーハトーブの聖なる光を封じ込めたように、不気味なほど眩しく、そして冷たく横たわっていました。

「これが欲しいと、あちこちで嗅ぎ回っていたんだろう? さあ、どうする。私の『恋の服』を縫い上げるか、それとも、その名前も分からぬ娘の記憶とともに、このまま野垂れ死ぬか」

 シルヴァンの目の前で、ガラスが割れたような絶望と、黄金色の誘惑が激しく渦を巻きました。
 薄れゆく記憶は、いずれハサミを使う目的も、ルミナの存在も忘れてしまうと。 

 シルヴァンは震える手で、その禍々しくも美しい金の針と竜の髭を手に取りました。それは、魂を切り売りする悪魔の契約に、自らサインをした瞬間でもありました。

 紳士は、勝ち誇ったように喉の奥で笑うと、香水の残り香と冷ややかな足音だけを残して、漆黒の馬車と共に去っていきました。

 静まり返った店内で、シルヴァンはただ一言、「……ルミナが、幸せになるのなら」と、祈るような微笑みを浮かべました。