刺繍に込めた本当の幸福

 震える指先で、ボロボロになったノートをめくります。
 インクの文字を必死に指でなぞり、失われかけた記憶の断片をかき集めました。
 
 シルヴァンは、必死にノートの文字を指で擦(こす)り。
 まるで、指の先に文字の感触を吸い取って、失われた心を取り戻そうとするかのように…。

 「……あった。そうだ。今日も洋服を」

 ようやく見つけ出した一着を、宝物のように抱きしめて差し出しました。
 けれど、顔を上げたシルヴァンの唇が、奇妙な強張(こわば)りを見せます。

 目の前に立つ、この透明な、けれど誰よりも愛おしいはずの少女を、なんと呼べばいいのか。
 さっきまで口にしていた、あの琥珀のように甘く、リンドウの花のように清らかな響きが、どうしても思い出せないのです。

「……様。……大切なお客様。あなたのために、心を込めて糸を通したお洋服です」

 名前を呼ぶはずだった場所が、ぽっかりと凍った空白になっていました。
 丁寧すぎるその呼び名に、彼女は一瞬、弾かれたように肩を震わせました。

 「シルヴァン……。今、私のことを、なんて呼んだの?」