稟湖が信清に心酔したきっかけは彼が執事だからである。
例えば、万が一稟湖に仕える初めての執事が信清ではない誰かだったとしたならば、稟湖はその信清ではない誰かを好きになっていた。それは間違いないだろう。
稟湖は執事であれば本当に誰でも良かったのだ。
とにかく当時の自分は執事と恋がしたかった。その点に関しては何も嘘はない。
信清は優秀な執事だ。
頭も優れ、護衛だって完璧にこなす。稟湖に護衛が必要ないだけで、彼の護衛能力はとても高い。そして料理の腕前もあれば掃除だっていつも素早く丁寧に行う。
正直、あの年齢にしては出来過ぎている執事と言っても決して大袈裟な話ではない。彼は他者からも評価されている有能すぎる素晴らしい従者だ。
しかし稟湖が彼を好きになった理由に信清の優秀さは一切関係がなかった。
彼がどんなに劣っている執事であったとしても、稟湖はその劣っている点に魅力を感じて信清に変わらず恋をしていただろう。
つまり、結局は信清が執事であったからという理由に尽きる。
どんなに素晴らしい見た目でも、どんなに優れた能力があっても、信清が執事でなければ稟湖は恋をすることはなかった。
これが純粋な恋心なのかと問われると、いささか容易には頷けない。
だがそれでも、信清への愛は本物だ。
最初こそ彼の執事というレッテルに恋をしていた稟湖ではあるが、十三年という時を彼と共に過ごし、稟湖の中で信清が執事という枠組みから抜け出している事も本当の事だった。
だからこそ、自分が彼を好きだという気持ちに迷いなどは一切ない。
それにこの先もし、彼が執事ではなくなったとしても信清を変わらずに好きでいるのだという確信も今の稟湖の中には強くある。
(今日も素敵な肌の色をしていたわ……色素の薄い髪の毛もすごく眩しかったわね…うふふ)
そんな感想を抱きながら、稟湖は闇夜の中で意識を手放していた。
第一話『執事に首っ丈』終
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