「そういや、今回のテストは数学に苦戦したんだってな? 次来た時勉強も見てやろうか」
食事が終わり、二人は個室を離脱していた。
そのまま次の授業に向かうべく途中まで廊下を歩いていると次富にそんな言葉を繰り出される。
「そうね、教えてもらおうかしら。数学は本当に苦手だわ」
次富は勤勉で頭が良い。常に学年順位が一位の優れた男性だった。稟湖はそんな彼を一人の友人として尊敬している。
稟湖の言葉に次富は頷くと、そのまま話題が勉強の話になっていた。
基本的に二人でいる時は互いの恋バナを交わしたいのが本音であるが、誰が聞いているか分からない学校の廊下でその話をするのは推奨される行為ではないだろう。ゆえに誰に聞かれても支障のない話をするのが安全なのである。
そして歩きながら二人で勉強の話を続けていると、広い廊下で何名かの団体とすれ違う。
「ねえご覧になって。龍宮寺さんと寿慶門さんよ。とってもお似合いだわ」
「あのお二人、いつ見ても仲が宜しいのね。雰囲気から溢れるオーラが素敵だわ!」
「美男美女ですもの。お二人の結婚式には是非とも参列させていただきたいわあ〜!」
そんな黄色い声がはっきりと聞こえてきた稟湖は彼女らの方に顔を向け、優しく笑みをこぼしながら「ご機嫌よう」と声を発していた。
そうすると、こちらに注目していた令嬢達はパアッと効果音が聞こえてきそうな程分かりやすくも嬉しそうに頬を赤らめ「ご機嫌よう寿慶門さん!」と弾んだ声を返してくれる。
続けて稟湖のすぐそばにいた次富も「皆さん午後の授業も乗り切りましょうね」と彼女らへ紳士的な言葉を向け、令嬢達はその発言にも先程のような反応を見せて可愛らしく返答をしていた。
そうして歓声を上げながら立ち去っていく彼女らを見送り終えると、二人は立ち止まっていた足を再び動かし始めていた。
あのように学園の同級生や下級生から次富とセットで見られる事は日常的にある。
稟湖の家はそこまで大きな財閥ではないが、次富は有名な財閥の令息であるため注目を集めやすいのだ。
だからこそ令嬢や令息が大多数在籍するこの学校で稟湖達はそれなりに目立ってしまう。
だが信清という大本命がいる稟湖にとってこのような状況は複雑な事でもあった。
次富との関係性を羨望の眼差しで見られる事に真実は偽りだという罪悪感や、信清への想いを公表できないという歯がゆい思いがあるからだ。
しかしこちらの本心を知る者はここにいる次富と椿延の二人しかいないのが現実である。
稟湖の望み通りにならないのは当然の事であり、それは自分でもよく理解していた。
それに、こちらにキラキラとした曇りのない瞳を向けてくれる相手に無礼な態度は取りたくなかった。
だからこそ稟湖は学園の生徒達に友好的な態度で接したいと心から思う。複雑な思いがあったとしても、こちらを慕ってくれる彼女達への感謝の気持ちも忘れたくないのだ。
