「稟湖さん、良ければご一緒に昼食を摂りませんか?」
「教室でも食堂でも、わたくし達お付き合い致しますの。いかがでしょうか」
学校へ到着し、早くも半日が経過していた。
昼休みを迎えると稟湖はクラスメイトの二名からそのような声を掛けられ、しかしすぐに眉根を下げてお断りの言葉を発した。
クラスメイトの気持ちに応えられない事に申し訳なさが生まれていたものの、誘ってくれる彼女らの優しさに気持ちは温かくなる。
「お二人共ごめんなさい。今日は婚約者との先約がありますのよ」
そう言葉を返すと、目の前の二人は口元に手を当てながら「それは大変微笑ましい行事ですわ」と僅かに頬を染め始めていた。
稟湖はそんな彼女らに視線を向け続け、もう一度言葉を口にする。
「そう仰ってくださり嬉しいですの。後日改めて私の方からお食事の誘いをさせて下さいな。お誘いとても嬉しかったですわ」
「稟湖さん……!! お待ちしておりますわね!」
稟湖はそう言ってニコリと本心からの笑みを溢す。そうすると、対面しているクラスメイトの二人は嬉しそうに目を輝かせその場を立ち去っていった。
中高一貫であるこの学校では知り合いもそう少なくはない。友人と呼べる存在も稟湖には数多くいると自負している。
しかし一年前に最も親しい友人が留学に行ってからは特定の誰かと共に行動をする事はなく、稟湖はその時々に関わっている者達と行動をしていた。
そのため昼食の時間もいつも同じ相手と食べるという習慣はなく、今回のように不定期に誘ってくれる者が何人か校内にいるのである。
稟湖のように一つの集団に定まらない人間をこうして誘ってくれる人がいるという状況は決して当たり前の話ではなく、彼女達の優しさなしには起こり得ない事だと日々感じている。ゆえに彼女らの気遣いには心からの感謝を向けずにはいられない。
話し掛けてくれたクラスメイトの二人を見送った後、稟湖はいつものように椿延から渡されたこ綺麗な弁当バッグを手に持ちそのまま教室を後にしていた。
そんな稟湖の胸は自然と弾んでいる。そう、これからの行事は稟湖にとって高揚感なしではいられないそんな時間だったからだ。
