「稟湖様、ご準備に入らせていただきます」
「ええ、お願いね」
自室へ戻ってきた稟湖の部屋にやって来たのは専属メイドの足立椿延だ。
彼女は稟湖が産まれた時からずっとそばで仕えてくれている歴の長いメイドであり、稟湖より十五歳年上である椿延は信頼の出来る数少ない従者でもある。彼女はいつも笑顔を絶やさず、安心する空気感を生み出してくれる素敵な女性だった。
ちなみにこれは他の従者に聞いた話であり決して稟湖に向けてされた事ではないが、椿延は怒る時も笑顔で怒りを見せるのだとか。
「ねえ、椿延。今日は信清が私のおやつを用意してくれたみたいなの。私とっても嬉しくて。もう朝から最高の気分なのよね」
椿延に身なりを整えられ、稟湖の長い髪の毛が柔らかいブラシでとかされていく。そのまま編み込まれていく自身の髪を鏡で見つめながら、稟湖は頬を染め信清への愛を語り始めていた。
「稟湖お嬢様のお気持ちが弾まれたのなら何よりで御座います。六輪が間食を用意する日数を増やせるよう今後も調整致します」
「ふふ、お願いするわね。私、今日も好きを伝えられたわ。好きな人に好きと伝えられるのってとても幸せね」
「稟湖様の幸せが、私にとっても何よりの幸せで御座います。どうか本日も素敵な日をお過ごし下さいませ」
椿延は稟湖が信清を好きだという事を知っている。
なんでも話せる彼女に稟湖は毎日のように信清の話を聞いてもらっていた。
椿延は全面的に信頼の置けるメイドであるが故に、稟湖のプライバシーな事まで全部を知り尽くしている。
口の固いメイドなので、この稟湖の想いが露見する心配も全くなかった。ノーリスクで話し相手がいるというのは、控えめに言っても有難い環境である。
しかし、寿慶門財閥の令嬢である稟湖が、一介の執事に首っ丈である事を大っぴらに明かす事は出来ない。
稟湖には婚約者という存在がいるからだ。
だからこそ、稟湖は家族にはそのような話は一切していないし、当の本人である信清にもはっきりと明確な好意を伝えてはいない。稟湖の本心を知る者は本当に限られた者だけだった。
「それじゃあ行ってくるわね。みんな、今日も朝からありがとう」
椿延の迅速で丁寧な支度が終わった稟湖は、いつものように通学鞄を手に持ちながら広々とした玄関の前で見送りに出ている従者達へやわらかな笑顔を向ける。
いつも自分のお世話から見送りまでしてくれる従者達は稟湖にとってとても大切な存在だ。
それは信清だけに限らず全員へ感じている偽りのない親愛である。朝の支度をしてくれる椿延。朝食を作ってくれる料理長。些細な事柄に気を回してくれるメイド達。皆大切な従者達だ。
ただ稟湖が恋愛感情を向ける唯一の相手は絶対的に信清のみなのである。
「勿体無いお言葉痛み入ります。どうかお気を付けて行ってらっしゃいませ稟湖お嬢様」
そのまま執事とメイドに見送られ稟湖はリムジンに乗る。
見送る従者の中にいる信清へ想いを募らせながらも、稟湖は気持ちを抑え学校へ向かっていった。
「ええ、お願いね」
自室へ戻ってきた稟湖の部屋にやって来たのは専属メイドの足立椿延だ。
彼女は稟湖が産まれた時からずっとそばで仕えてくれている歴の長いメイドであり、稟湖より十五歳年上である椿延は信頼の出来る数少ない従者でもある。彼女はいつも笑顔を絶やさず、安心する空気感を生み出してくれる素敵な女性だった。
ちなみにこれは他の従者に聞いた話であり決して稟湖に向けてされた事ではないが、椿延は怒る時も笑顔で怒りを見せるのだとか。
「ねえ、椿延。今日は信清が私のおやつを用意してくれたみたいなの。私とっても嬉しくて。もう朝から最高の気分なのよね」
椿延に身なりを整えられ、稟湖の長い髪の毛が柔らかいブラシでとかされていく。そのまま編み込まれていく自身の髪を鏡で見つめながら、稟湖は頬を染め信清への愛を語り始めていた。
「稟湖お嬢様のお気持ちが弾まれたのなら何よりで御座います。六輪が間食を用意する日数を増やせるよう今後も調整致します」
「ふふ、お願いするわね。私、今日も好きを伝えられたわ。好きな人に好きと伝えられるのってとても幸せね」
「稟湖様の幸せが、私にとっても何よりの幸せで御座います。どうか本日も素敵な日をお過ごし下さいませ」
椿延は稟湖が信清を好きだという事を知っている。
なんでも話せる彼女に稟湖は毎日のように信清の話を聞いてもらっていた。
椿延は全面的に信頼の置けるメイドであるが故に、稟湖のプライバシーな事まで全部を知り尽くしている。
口の固いメイドなので、この稟湖の想いが露見する心配も全くなかった。ノーリスクで話し相手がいるというのは、控えめに言っても有難い環境である。
しかし、寿慶門財閥の令嬢である稟湖が、一介の執事に首っ丈である事を大っぴらに明かす事は出来ない。
稟湖には婚約者という存在がいるからだ。
だからこそ、稟湖は家族にはそのような話は一切していないし、当の本人である信清にもはっきりと明確な好意を伝えてはいない。稟湖の本心を知る者は本当に限られた者だけだった。
「それじゃあ行ってくるわね。みんな、今日も朝からありがとう」
椿延の迅速で丁寧な支度が終わった稟湖は、いつものように通学鞄を手に持ちながら広々とした玄関の前で見送りに出ている従者達へやわらかな笑顔を向ける。
いつも自分のお世話から見送りまでしてくれる従者達は稟湖にとってとても大切な存在だ。
それは信清だけに限らず全員へ感じている偽りのない親愛である。朝の支度をしてくれる椿延。朝食を作ってくれる料理長。些細な事柄に気を回してくれるメイド達。皆大切な従者達だ。
ただ稟湖が恋愛感情を向ける唯一の相手は絶対的に信清のみなのである。
「勿体無いお言葉痛み入ります。どうかお気を付けて行ってらっしゃいませ稟湖お嬢様」
そのまま執事とメイドに見送られ稟湖はリムジンに乗る。
見送る従者の中にいる信清へ想いを募らせながらも、稟湖は気持ちを抑え学校へ向かっていった。
