その恋、仕様外につき――鉄壁SEは御曹司の暴走を許さない


 真壁怜(まかべれい)、二十七歳、女性。

 日本屈指のSIer「アルカディア・ソリューションズ」に入社して五年。彼女は社内で「鉄壁の真壁(アイアン・メイデン)」と呼ばれていた。
 どんな炎上案件も、彼女がキーボードを叩けば、論理という名のメスで鮮やかに解体され、鎮火する。華やかな私服も、愛想の良い笑みも、彼女の仕事には不要だった。


 会議室のドアを開けると、そこには現場の苦労を数字でしか測れない技術部長が、薄気味悪いほど柔和な笑みを浮かべて座っていた。

「部長、お待たせしました」
「来たね、真壁君。君も急がしいだろうから、単刀直入に言おう。四月一日付で、君を新プロジェクト『Ark(アーク)』のメインエンジニアに任命することになった。リーダー立っての希望でな」
「……え?」

 怜は息を呑む。突然何の話だろう。
 そもそも、新プロジェクトが何かもわからないのに、メインエンジニアに指名されるなど意味がわからない。

 まったく状況が呑み込めないまま、部長が差し出したタブレットを受け取る。
 そこには、数千億規模の次世代インフラ構築の概要。そして、リーダーの欄には、見たこともない名前があった。

『プロジェクトリーダー:西園寺(さいおんじ)(けい)

 ――西園寺、景? 誰だろう。こんな名前の人、社内にいたっけ。いかにも育ちの良さそうな、鼻持ちならない名前だけど。
 そう思って、ハッとする。

(え、待って。西園寺って、社長の苗字じゃなかったっけ)

 何だか、面倒くさい臭いがする……。非常に政治的な、嫌な予感が。