言えない。言わない。

夜は、思っていたより静かだった。

春になりかけの匂いが、風に混ざっていた。

玲央は、静かに窓を開けた。

明日は入学式。

それを思うと、なんとなく落ち着かない。


しばらくして、隣の窓が開いた。

月乃は、髪をほどいたままパジャマ姿だった。


月乃「……れお?」

玲央「おう」



月乃「まだ起きてたの?」


玲央「つきのこそ」


月乃「なんか、眠れなくて」


玲央「遠足の前の日みたいだな」


月乃「……そう」


少しだけ不安そうな声。


月乃「明日から小学生なんだね」


玲央「まあな」


月乃は空を見上げる。


星は少ないけれど、ぽつりぽつりと光っていた。


月乃「……ランドセル、もう玄関に置いてある」


玲央「早いな」


月乃「だって明日忘れたら大変でしょ」


玲央「忘れねーよ」


月乃「れおならありえるよ〜」


玲央「ありえねーよ!」


月乃はくすっと笑った。


月乃「……ねえ」


玲央「ん?」


月乃「小学生になってもさ」


月乃「……変わらないよね」


玲央「なにが?」


月乃「……いろいろ」


少し曖昧な言い方。

でも、なんとなく分かる。

玲央は肩をすくめる。


玲央「別に変わんねーよ」


月乃はその言葉を聞いて、少しだけ安心した顔になった。


月乃「そっか」


街はもうだいぶ眠っている。

月乃は窓枠にあごを乗せた。


月乃「なんかさ」


月乃「明日、……ちょっとだけ楽しみ」


少しだけ照れくさそうな声。


玲央「……俺も」


ぽつりとした声。

月乃はそれを聞いて、にこっと笑った。


明日になれば、三人はランドセルを背負って学校へ行く。

ほんの少しだけ違う世界に入る。

窓の外の夜は、静かに続いていた。


春はもうすぐそこまで来ている。

夜の空には

小さな星がひとつだけ光っていた。