言えない。言わない。

午後の光は、やわらかい春の色をしていた。

三人は、公園の奥の道をゆっくり歩いている。

特に理由はない。

ただなんとなく、いつもの帰り道を少し遠回りしているだけ。


雫「見て」


指さした先に、大きな木があった。

枝いっぱいに広がる、淡いピンク。


月乃「……桜だ」


見上げると、花はまだまばらだった。

枝のあちこちに、小さな花がぽつぽつと咲いている。


玲央「まだちょっとじゃん」


月乃は空を見上げる。

薄い花びらの向こうに、青い空が広がっていた。


月乃「咲き始めてるね」


雫「ほんと、もうすぐだね」


咲いたばかりの花びらが、ひとつだけふわりと落ちてきた。


玲央「満開じゃないな」


月乃「うん」



月乃「……ねえ」


玲央「なに?」


月乃「満開になったらさ、お花見しようよ」


雫「お花見?」


月乃「うん!」


月乃「お菓子とかお弁当とか!
持ってきてさ、桜見るの!」


玲央「花見るだけじゃねーの?」


月乃「違うよ!お花見はお弁当とかお菓子とかいるんだよ!」


雫がくすっと笑った。

玲央は桜を見上げる。

まだ少ない花。

でも、確かに咲きはじめている。


月乃「あ!ママたちにも言わなきゃ!」


玲央「なんで?」


月乃「だってお弁当作ってもらうんだもん!」


雫「そうだね!!」


月乃「うん!みんなでお花見!」


玲央「その頃にはもう小学生じゃね?」


ぽつりとした言葉。


月乃「……ほんとだ」


玲央「変な感じ」


月乃は桜を見上げながら、ふっと笑う。


月乃「でもちょっとだけ楽しみ」


それから、首から下げた小さなカメラを持ち上げた。


月乃「写真撮っていい?」


雫「桜?」


月乃「うん」


カメラを空に向ける。

桜の枝の向こうに、青い空。


カシャ。


小さな音が春の空気に溶けた。


月乃「満開のときも撮る」


雫「同じ場所で?」


月乃「うん!」


玲央は腕を組んで言う。


玲央「じゃあ毎年来よーぜ!」


月乃「ほんと!?」


玲央「どうせ毎年咲くし」


月乃「じゃあ毎年お花見!」


雫「約束だね」


玲央「はいはい」


まだ少ない花びらが、風に少しだけ揺れる。

満開には、もう少し。

でも、確かに春は来ている。

三人は少しだけその場に立っていた。

見上げる先には、やわらかな桜。

その向こうに、青い空。

次にここへ来るとき。

三人はもう、ランドセルを背負っている。