言えない。言わない。

三人で並んで、ゆっくり歩く。

さっきまでいた校庭のざわめきが、少しずつ遠くなった。

そのまま、空を見上げる。

青い空。


月乃「ねえ」


玲央「なに」


月乃「なんかさ、ちょっとだけ大きくなった気分」


雫がくすっと笑う。


雫「もう小学生だもんね」


玲央「まだだけどな」


月乃は、へへっと笑った。

さっきまでの緊張が、少しだけ遠くに行った気がする。


雫「そういえばさ、ランドセル何色にした?」


玲央「俺、黒」


月乃「やっぱり〜」


雫「れお絶対それだと思った」


玲央の少し得意そうな顔。

雫はくすっと笑う。


雫「私はね、ラベンダーにした」


月乃「え、紫?」


雫「うん。ちょっと薄いやつ」


月乃「雫っぽいね!」


雫「でしょ?」


それから、二人の視線が月乃に向く。


雫「月乃は?」


月乃「……茶色にしたの」


言ったあと、月乃はちらっと二人を見る。

ちょっとだけ、身構えていた。

ぽくないって……言われちゃうかも

でも。


玲央「そっか。月乃っぽいじゃん」


雫「落ち着いた色、好きそうだもんね」


月乃「え、そう?」


雫「うん」

玲央「部屋とかもそんな感じじゃん」


言われて、月乃は少し考える。

自分の部屋。

たしかに、服は水色とか好きだけど。

机とか棚とか、なんとなく落ち着いた色が多い。


月乃「……そうなのかな」


雫「うん、似合いそう」


玲央「茶色のランドセルの月乃、想像できる」


当たり前みたいに言う。

誰も驚かない。

からかわない。

月乃は、少しだけ不思議な顔になる。

どうしてだろう。


あの色を見たとき

自分でも理由はよく分からなかった。


でも。

なんとなく落ち着いた。

安心する気がした。

月乃は、二人の横顔を見る。

二人は何も知らないはずなのに。

ちゃんと「月乃っぽい」って言う。


月乃「……そっか」


ふっと笑った。

なんだか、少しうれしかった。

理由はうまく言えないけれど。

ちゃんと見てもらえてる気がしたから。

前を見ると、道の先に春の光が広がっていた。

月乃は空を見上げた。

あの日と同じ、青い空。

三人で並んで歩いている。

それは変わらない。

今は、まだ。


ただ、これからは、少しずつ違う世界が増えていく。

月乃はそのことを、まだちゃんとは知らない。

でも、なんとなく。

胸の奥で、何かが動きはじめていた。

春の風が、三人のあいだをやわらかく通り抜けていった。