「それと・・・、ラッコの求愛行動は知ってる?」
「ふふっ。また求愛行動ですか?」
「オスがメスの鼻を噛むんだって。」
「えー!痛そう!」
「痛いかどうか、確かめてみる?」
「え?」
和木坂課長は柵に手をついたまま身体を私の顔の前まで屈みこみ、私の鼻を軽く噛んだあと、その唇を私の唇に押し当てた。
突然の出来事に驚き、おもわず目を見開いてしまう。
和木坂課長の柔らかい唇からミントの香りがする。
ほんの一瞬だったはずが、私には時が止まったように長く感じた。
まだ離れたくない。
私の唇がそう告げそうになる。
ゆっくりと和木坂課長の伏し目がちな顔が離れ、私達はみつめあった。
真っ赤になった私は、ゆっくりと息を吐き、胸の鼓動を必死に静める。
「ごめん。返事ももらっていないのに、こんなことして。でもミチルちゃんの子供みたいにはしゃいだ笑顔をみてたら、抑えきれなかった。」
そう言うと、和木坂課長は照れ臭そうに笑った。
こんなの困る。
だって・・・もっと好きになってしまうよ。
もっともっと和木坂課長が欲しくなる。
唇もその低い声も、手のひらの感触も、全部私だけのものにしたい。
でも和木坂課長がくちづけしたのは、私じゃない、ミチルなんだ。
千佐としての私が戒めるようにそうつぶやく



