「・・・本当は猫なんて飼いたくなかったんだ。」
ふいに和木坂課長が目を伏せ、その表情が暗い影を落とした。
「どうしてですか?」
こんなにも愛おしそうに猫の背中を撫でているのに。
「猫って自分の死期を悟ると姿を消すっていうだろ?そんな別れがいつか来ると思うと悲しくなる。」
和木坂課長・・・過去に辛い別れを経験したのだろうか?
私は和木坂課長を励ます言葉を必死に考え、以前聞いたことのある話を思い出した。
「あのね・・・もしケンケンがこの世を去ったら、天国の手前にある虹の橋と呼ばれる場所に行くんです。そこにはお水も食べ物もお日様もあって、ケンケンはなに不自由なく幸せに暮らすんです。そしてケンケンは和木坂さんがこの世を去るまで、そこで待っていてくれるんですよ。だからそんなに悲しまなくても大丈夫です。」
「・・・・・・。」
「だから今は、思い切りケンケンを可愛がってあげましょう。」
「ああ。そうだな。・・・ありがとう。」
和木坂課長は私の顔をみつめ、潤んだ目を誤魔化すように唇をかんだ。



