春の風がまだ少し冷たい四月の朝。中学二年生になったコウタは、新しいクラスの名簿を何度も見返していた。そこに書かれていた「マリナ」という名前が、どうしても気になっていたからだ。去年、同じ学年にいたはずなのに、ほとんど話したことがなかった女の子。明るくて、いつも友達に囲まれている印象だけが残っていた。
初めて同じ班になったのは、理科の実験の時間だった。試験管を持つ手が少し震えていたコウタに、マリナはにこっと笑って言った。「大丈夫、ゆっくりやればうまくいくよ。」その一言で、不思議と緊張がほどけた。実験が終わる頃には、二人は自然と会話をしていた。
「コウタ君って、サッカー部だよね?」
「う、うん。マリナさんは吹奏楽部だっけ?」
「そう!フルート担当なんだ。」
それから、廊下ですれ違うたびに挨拶をするようになり、放課後に少し話すことも増えていった。コウタは、自分でも気づかないうちに、マリナの笑顔を探すようになっていた。部活の帰り道、夕焼けの校庭でフルートの音が聞こえると、つい足を止めてしまう。窓越しに見えるマリナの横顔は、いつも真剣で、どこか遠くを見ているようだった。
ある日、雨が降って部活が早く終わった帰り道。傘を持っていなかったコウタは、昇降口で立ち尽くしていた。そこへ、マリナがやってきて、小さな声で言った。「もしよかったら…一緒に帰る?」一本の傘の下、二人の肩が少しだけ触れる距離。雨音に紛れて、心臓の鼓動がやけに大きく感じた。
「コウタ君って、優しいよね。」
「え?そんなことないよ。」
「この前、落とした楽譜、黙って拾ってくれてたでしょ。嬉しかった。」
コウタは顔が熱くなるのを感じながら、うつむいた。「見てたんだ…」
沈黙のあと、マリナがぽつりと呟いた。「私ね、コウタ君と話す時間、けっこう好きだよ。」
その言葉は、雨よりも静かに、でも確かに胸に落ちてきた。コウタは勇気を振り絞って言った。「俺も…マリナさんといると、なんか安心する。」
マリナは少し驚いたように目を丸くして、それからふわっと笑った。その笑顔を見た瞬間、コウタははっきりと自分の気持ちに気づいた。これはきっと、ただの「好き」じゃない。もっと大切で、特別な気持ちだ。
夏が近づく頃、学校の帰り道の公園で、コウタはついに言葉にした。「マリナさん。俺、もっと一緒にいたい。…その、好きです。」
しばらくの沈黙。風に揺れる木の葉の音だけが聞こえる。やがて、マリナは小さく息を吐いて、少し照れながら答えた。「私も、コウタ君のこと、ずっと気になってた。」
二人は顔を見合わせて、同時に笑った。まだ手をつなぐ勇気はないけれど、並んで歩く距離は、もう前より少し近い。中学二年生の、まだ不器用でまっすぐな恋は、ゆっくりと、でも確かに始まっていた。
初めて同じ班になったのは、理科の実験の時間だった。試験管を持つ手が少し震えていたコウタに、マリナはにこっと笑って言った。「大丈夫、ゆっくりやればうまくいくよ。」その一言で、不思議と緊張がほどけた。実験が終わる頃には、二人は自然と会話をしていた。
「コウタ君って、サッカー部だよね?」
「う、うん。マリナさんは吹奏楽部だっけ?」
「そう!フルート担当なんだ。」
それから、廊下ですれ違うたびに挨拶をするようになり、放課後に少し話すことも増えていった。コウタは、自分でも気づかないうちに、マリナの笑顔を探すようになっていた。部活の帰り道、夕焼けの校庭でフルートの音が聞こえると、つい足を止めてしまう。窓越しに見えるマリナの横顔は、いつも真剣で、どこか遠くを見ているようだった。
ある日、雨が降って部活が早く終わった帰り道。傘を持っていなかったコウタは、昇降口で立ち尽くしていた。そこへ、マリナがやってきて、小さな声で言った。「もしよかったら…一緒に帰る?」一本の傘の下、二人の肩が少しだけ触れる距離。雨音に紛れて、心臓の鼓動がやけに大きく感じた。
「コウタ君って、優しいよね。」
「え?そんなことないよ。」
「この前、落とした楽譜、黙って拾ってくれてたでしょ。嬉しかった。」
コウタは顔が熱くなるのを感じながら、うつむいた。「見てたんだ…」
沈黙のあと、マリナがぽつりと呟いた。「私ね、コウタ君と話す時間、けっこう好きだよ。」
その言葉は、雨よりも静かに、でも確かに胸に落ちてきた。コウタは勇気を振り絞って言った。「俺も…マリナさんといると、なんか安心する。」
マリナは少し驚いたように目を丸くして、それからふわっと笑った。その笑顔を見た瞬間、コウタははっきりと自分の気持ちに気づいた。これはきっと、ただの「好き」じゃない。もっと大切で、特別な気持ちだ。
夏が近づく頃、学校の帰り道の公園で、コウタはついに言葉にした。「マリナさん。俺、もっと一緒にいたい。…その、好きです。」
しばらくの沈黙。風に揺れる木の葉の音だけが聞こえる。やがて、マリナは小さく息を吐いて、少し照れながら答えた。「私も、コウタ君のこと、ずっと気になってた。」
二人は顔を見合わせて、同時に笑った。まだ手をつなぐ勇気はないけれど、並んで歩く距離は、もう前より少し近い。中学二年生の、まだ不器用でまっすぐな恋は、ゆっくりと、でも確かに始まっていた。

