恋するオトメは超無敵っ!

 二十歳ほどの年齢だろうか。
 大きなマスクで、顔の下半分をすっぽり隠していた。
 やや吊りあがった細い目が、こちらに向いている。
 赤いベレー帽に赤いワンピース姿、赤いハイヒールの彼女は、怪訝な顔になったわたしたちへ言った。

「ねえ、わたしってキレイ?」

 あ、これ。
 口裂け女のセリフ!

 瞬間に思い当たったわたしは、固まった。
 えっと、出会ったときは、なんて返したらよかったんだっけ?
 正しい返事をすれば見逃してもらえるんだよね?
 って、本当に口裂け女で合ってる?

 グルグルと考えていたわたしの横で、阿万音ちゃんが、おもむろに一歩踏みだした。

「あたしに任せて」

 口裂け女の目が、ゆっくりと阿万音ちゃんへ向く。
 おお!
 さすが翔くんの妹ちゃん。
 怪異の撃退法に熟知ですか?

 期待に胸が膨らむわたしの前で、阿万音ちゃんは声を張りあげた。

「ポマード、ポマード、ポマード!」

 言い終わったその場に少しの間、静寂が訪れた。

 ――ああ、そういえば。
 口裂け女はポマードの香りが苦手だから、その言葉を唱えたらひるむって聞いたことがあるような……。
 なんて考えているあいだに、阿万音ちゃんは続けた。

「犬がきた、犬がきた。犬がきた! ニンニク、ニンニク、ニンニク!」

 ――これは阿万音ちゃん、効果があるとされている言葉を、片っ端から言っている感じなのかな。
 その言葉をジッと聞いている口裂け女。
 ちっとも効果があるようには思えない。

 すると阿万音ちゃんは、わたしのほうへくるりと振り向いた。
 右手を差しだし、エラそうな態度で命令する。

「ちょっとあなた、べっこう飴は! さっさと出しなさいよ!」
「いや~。さすがに学校へは、飴なんて持ってきていないかな……」
「なによ、役に立たないわね!」

 阿万音ちゃんが、口裂け女から視線をそらせたせいだろうか。
 今度は、わたしに口裂け女の視線が向く。
 なので、わたしはお愛想笑いを浮かべつつ口を開いた。